皆と別れ、寒空の下できるだけ急いで駆ける。吐息が白くてより寒さを痛感しながら見えてきた家の明りはついていた。エントランスに滑り込み、丁度良く来ていたエレベーターに乗り込むとスマホがピピピと鳴った。
『先に寝る。飯は置いといたから温めて食え』
最近は俺の方が帰りが遅くなり、玲央が寝てしまうこともしばしばで。いつもはそんな玲央を起こさないように静かにシャワーを浴びて布団に潜りこむのだが、今日はダメだ。エレベーターが開いたその隙間を縫うように玄関扉を目指して走る。
ガチャガチャと、寒さで凍えた手と焦りで思うように鍵がささらず息を吐く。あぁ、早くしないと、そう思って鍵を握り直すと玄関扉が開いた。
「……うるせぇ、なにやってんだお前は」
「あ、玲央……ただいま」
「おかえり」
外気の寒さが玄関の隙間から襲う。さみぃ、とか文句を言いながら玲央が俺の腕を掴み、自分のほうへと引き寄せながら玄関を締め、鍵を閉めた。
「んっ、れ……お、」
ガチャン。鍵の閉まる音と同時に降りてきた唇の温かさに驚く俺とは逆に、冷たい唇に驚く玲央はすぐさま舌を滑り込ませる。互いに温かい舌を探り当てるように絡めれば、否応なしにも熱くなった。
「はっ……お前冷えすぎ」
「ん、だって、もう冬じゃん、特に夜は寒いよ」
俺の首に巻かれたマフラーを解きながら、じっとこちらを見下ろす玲央に内心首を傾げる。お前、手袋は。と聞かれて一瞬固まってしまった。
「手袋も買っただろ」
「……あれは、スマホいじれないし」
「馬鹿か」
寒さが際立つようになり、マフラーも手袋も持っていなかった俺に玲央は買い物へ連れて行ってくれたことがある。堂々と某ブランド店の扉を開ける玲央にギョッとしながら付いていけば、あれやこれやあてがわれ、結局は玲央の好みで選ばれたマフラーと手袋。
マフラーは良い。上質な手触りと細かな繊維に模様も大人っぽくて好きだ。けれど手袋は……ミトンだった。
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