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俺はそんな雄樹に向き直り、軽く頭を下げる。さすがに俺の行動に驚いたのか、雄樹は「え? え? トラちゃん!?」と慌てふためいているが、ここは無視だ。


「ずっと言えなかったけど、ありがとう、雄樹。バイトがないって嘆いてた俺を、カシストに連れてきてくれたのは雄樹だろ? はじめはさくらだったけどさ、でもここに来なきゃ今の俺はなかった。だから、ありがとうな、雄樹。やっぱりお前は自慢のダチだよ」

「……とら、ちゃん……」


と、呟いた雄樹がボロボロと涙をこぼす。しかも目を見開いたままこちらを見つめ続けてボロボロと、ボロボロと泣くのでちょっとした間抜け顔になっている。俺はそんなアホの涙を袖で拭いながら「アホ面だなー」と笑ってやると、雄樹は「だって俺、アホだもん」なんて言うのでつい吹いてしまった。
そんな俺たちを斜め後ろで見守っている志狼に視線を向け、微笑む。


「志狼、ごめんな。志狼が自分の夢を教えてくれたとき、俺、答えなかっただろ? 一番最初はさ、やっぱり仁さんと雄樹に聞いて欲しかったんだ。この二人と、カシストが俺の原点だから、そこだけは譲れなかった」

「ううん、気にしないで。俺は小虎のそういう誠実なところが好きだから」

「ありがとう、志狼」

「うん、どういたしまして……それに、玲央より先に聞けたから、俺はそれだけで十分だよ。俺こそありがとう、小虎」


どこかすっきりとした爽やかな、だけど満たされた笑みを向けてくれる志狼に微笑みながら、俺は仁さんのほうへと改まる。


「まだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願いします」


俺たち三人を穏やかな瞳で見守る仁さんの笑みは、時に迷って不安だらけの心細さをいともたやすく消してくれる。それはきっと、この数か月で築き上げた時間のおかげ。


「こちらこそ。一緒に頑張って行こうな、トラ」

「はいっ!」


この場所で、誰かをほんの少しでも癒せることができるのなら。その思いはいつだって、消えることなく存在している。




 


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