いくら俺が男とはいえ、得体の知れない相手は怖い。
大きく深呼吸をして、思いっきり走り出す。うしろの足音も走り出したが躊躇わずにただ真っ直ぐ先を目指した。
とりあえず人がいるところにさえ出てしまえば迂闊に手を出すわけにもいくまい。
そう思ってただただ足を前へ動かしていくが、恐怖に竦みそうになる。
刺されるかも? なんて想像をしたが最後、現実味のない妄想が突如リアリティを増していく。
やべぇ、普通に怖ぇえ。
――ブォオオンッ!
と、恐怖で引きつった笑みを浮かべながら走る俺の横を一台のバイクが走りすぎた。かと思えば華麗にターンをしてこちらに戻ってくる。
バイクの音にさえ気づかなかった自分の焦り様に苦笑を浮かべる間もなく、その人は俺を守るように後ろ側に回り、止まった。
「迎えに来た、とりあえず乗れ」
「ひょうが、せんぱい……」
「なぁに弱気な声出してんだよ、ほら乗れ」
ポイッと渡されたヘルメットをかぶり、微笑む豹牙先輩のバイクに跨る。
ちらりと見た後ろ側には、黒い服を身にまとった男がただ一人、じっとこちらを見つめていた。
「ほら」
「あ……ありがとうございます」
なんだかよく分からないまま連れてこられた家の近くのコンビニにて、豹牙先輩が買ってくれたカフェオレを受け取る。口をつけたときに広がる砂糖の甘みが今は無性に気持ちをほぐしていった。
バイクに凭れた豹牙先輩が煙草を吸い出したが、決して俺の近くから離れようとはしない姿勢になんだか安心する。
「あの、どうして豹牙先輩がここに?」
「あー、まぁ色々あってな。とりあえず今日から当分、俺が小虎の送り迎えするから」
「へ?」
送り迎え? なぜに?
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