それから駅へ向かうと緑のカーデを着ている男性に声を掛けられた。
彼が携帯でノアさんから受け取ったメールを俺に見せてくれたので、安心して鞄を渡すと急に写メを撮られる。
な、なにごと!?
「受け取ったって証拠、今あいつにメールするからちょっと待って」
「へ? はぁ、はい……」
確かに見た目は大学生っぽいけれど、なんだか少し……顔色が悪いなぁ、この人。
なんというか、インドアな雰囲気というかなんというか。
その場で二、三分待つとすぐにノアさんからメールが届き、俺はその人と別れて学校へ向かう。
事前に持って来た制服を羽織って校門をくぐる頃にはすっかりお昼を過ぎており、いつものように調理室に現れた俺が見たのは、満面な笑みで不良たちにチョコレート粥をさばく雄樹の姿であった。もちろんそんな雄樹の周りには元は不良だった屍の山が。憐れ、不良たち。
「というわけで今より美味しいお粥を目指します!」
「おおー!」
放課後、いつものようにカシストの調理場に立ち、しゃもじを片手に意気込む俺に雄樹が拍手をしている。
仁さんはそんな俺たちにくすりと微笑み、その両手で俺と雄樹の頭をわしゃわしゃ撫でてきた。
「すみません、仁さん。おかずとか色々考えてくれたのに、結局ただのお粥に戻っちゃって」
「ばーか。ただのお粥じゃねぇだろ?」
「……はいっ」
あぁ、くすぐったいなぁ。でも嫌じゃない。むしろすごくすごく、今が楽しくて仕方がない。
仁さんに助言を求めたあの日から、仁さんと雄樹は俺と一緒になってお粥のことを真剣に考えてくれたのだ。
やっぱりおかずをつけるべき、いやいやでもそれじゃあ客の好みがあるから安易には選べない。結局はおかずをつけるか、今より美味しくするかの二択だったのだけど、それでもそのうち一つを選ぶということがこんなに難しいことを知れたのは、俺がカシストでバイトすることができたからだと思う。
最終的には仁さんの一言で満場一致になったのだけど、やっぱり大人は違うなぁと憧れが強くなったのは内緒だ。
未だに撫でながら、仁さんはニッと笑った。
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