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「正確には暇ではないですけど、なにかご用ですか?」

「ん? んー、実は駅までこれ届けなきゃいけないんだけどさ、ちょっと用事ができちゃって困ってたんだ。そんなときにコトラを見つけて、ちょうどいいなぁ〜って近づいてみた」

「はぁ……」


これ。と言ってノアさんが目の前に持って来たのはミニホルダーバックだった。
ていうかこの人、昨日の今日で俺に頼みごとする気か?


「今、俺に頼みごとする気かって思ったでしょ?」

「え?」

「顔に書いてある。分かりやすーい」


ケラケラ。人に指をさして笑うその姿でさえ確かに絵になるが、気分の良いものではない。
なんかこの人……苦手かも。


「で? コトラはどこに行くの? もし駅に行くならお願いしてもいいかな?」

「……学校に行くので駅には行きますけど、俺に預けてもいいんですか? 悪用するかもしれませんよ?」

「しないよ。君にそんな度胸はない――でしょ?」


まるで人の心を覗いたような妖艶な笑みに、心臓が変な音を立ててしまう。


「なにより君はレオの弟だからね。無条件で信じちゃう」

「……つまり玲央を信じている、と」

「あはははは」


まぁ、そう言ってくれたほうがこちらとしても変に警戒しないで済むというか。それに鞄を届けるくらいならまぁ、いいか。


「まぁ、いいですよ。届けるってことは待ってる人がいるんですよね? どんな人ですか?」

「ワォ! さすがコトラ! 助かるよ〜! 見た目はただの大学生なんだけどー、確か今日は緑のカーデ着てるって言ってたなぁ」

「緑のカーデですね。分かりました」

「うん、じゃあよろしくー。こっちからも相手にコトラのこと伝えとくね」


満面な笑みで渡されたミニホルダーバックを受け取り、ノアさんに一礼して背を向けた。
目を離すまでニコニコと微笑み手を振るノアさんに周りの女性がきゃあきゃあ騒いでいたが、無理もない。見た目だけは本当に可憐なのだから。


「僕はレオを信じてるけど、その逆も考えたほうがいいんじゃないかなぁ、ねぇコトラ」




 


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