病院を後にした俺の足取りは軽かった。その勢いで玲央に抱き着きたくなるほど高揚していたとも言えるが、一人で抱えるにはあまりにも膨大な感情で、だけど何一つ失いたくはなくて、気持ちが良い。
とりあえず、まずはお粥を今よりもっと美味しくしたい。
それから玲央とたくさん話をしたい。昔のことでも、今後のことでも、他愛のない話でもなんでもいいから話がしたい。
雄樹と志狼の三人で集まって、無駄に騒ぎながら仁さんに叱られて、お粥のデリバリーで隆二さんに頭を撫でられて、俺をからかう司さんの、手伝いをしている豹牙先輩にも撫でられて、カウンターで美味しい美味しいと喜ぶ巴さんにこっそり昔の玲央の話を聞いてもみたい。
泉ちゃんにはおめでとうって言ってあげるんだ。匡子さんには謝りたいこともある。変態だけど、西さんにもちゃんと挨拶はしたい。
近い将来、俺、いつか――。
「コトラ?」
胸を弾ませながら、普段何気なく過ごしている街並みを小走りで歩いていると、突然肩を掴まれた。同時に聞き覚えのある声に驚きを隠しつつも振り返る。
「……ノ……ア、さん?」
「うん、そう、名前覚えててくれたんだ? ありがとう、コトラ」
「いえ。昨日は玲央が追い出すみたいな形ですみませんでした」
「あはは。いーよいーよ、レオって僕にはいっつもあんな感じだもん。でもそれがいいよね〜」
邪険にされることのどこがいいのか分からないが、とりあえず苦笑を浮かべておくと、急に顔を近づけてきたノアさんが瞳を凝視してきた。
けっして威圧的ではないのだけど、玲央や巴さんとは違う気迫にたじろぐと、目の前の男は笑った。
「ねぇ今、暇?」
「へ?」
だというのに、身構えていた力が一気に抜けてしまった。
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