「お前が出てくるとは思わなかったよ」
俺たちに続いて中に入った仁さんが扉を閉めた。その直前、心配そうにこちらを見る雄樹に心が痛んだが、すまん雄樹、今は構ってやれねぇわ。
俺の腕から手を離し、仁さんの前に立った玲央はおもむろに頭を下げる。……頭を、下げた。
「――え、れ……」
「迷惑をかけてすみませんでした」
驚く俺の声を遮って発せられたその言葉に目を瞠る。
出てくるはずだった言葉が空気になってしまったくせに、心の奥が妙に熱い。
「あの、仁さん俺も……っ」
雄樹が俺のためにと開いてくれた飲みは、確かに閉店後のものだった。けれど幼児退行した俺が次の日バイトを休んだことは確かなのだ。
俺の様子を訝しんだ玲央が休みの連絡を入れてくれたとはいえ、ここ最近、バイトを休みがちな事実もある。
だから俺は今日、カシストに来て一番に仁さんに頭を下げた。
――それを今、きっと玲央もしているのだと分かる。
だからもう一度、玲央に並んで頭を下げようと近寄った俺の前に、玲央が手を出して制止する。
「小虎の病気については言えませんが、二度とこんなことがないよう、しっかり俺が見守ります。だから小虎のこと、これからもよろしくお願いします」
「……」
玲央。声にならない声が思わず口から漏れた。
だって、だってこれは、玲央が俺に誓った面倒を見るという姿勢そのものだ。
近寄りたい。抱きしめたい。大好きだって叫びたい。胸の奥が……すごくすごく、熱いよ、玲央。
そんな玲央に目を丸くした仁さんが、突然笑い出した。
「あはははっ! いや、いいって玲央。顔上げな」
仁さんの言葉に顔を上げた玲央を見た彼の目が、驚愕に見開くのを見た。
けれどもゆっくりその目に真剣さが宿っていき、部屋の中は静まり返る。
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