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「本当に悪かったっ!」

「へ? あ、いやいや」


カシストにて、開店時間数秒足らずでやって来た巴さんに頭を下げられた。
ポカンと開いた口から言葉を発したが、彼の左頬は大きなガーゼで覆われている。


「許してくれんのか?」

「え、はい、もちろん」

「っしゃ! おい聞いたか玲央! これでチャラだからな!」


そもそも何に対して謝っているのか分からず、いや、多分先日の服を捲ったことに対してなんだろうが、巴さんが謝ることではない。あれは俺自身に問題があっただけで、頭を下げることは――て、玲央?
のそり。いつからいたのか、巴さんのうしろから玲央が現れた。


「っせーよ。てめぇ、こんくらいで済んだことに感謝しろよ」

「あー、やだやだ。これだから血の気の多いガキは嫌いなんだ」

「あ゛?」

「わー。なんでもありませーん」


反省しているのかしていないのかよく分からない巴さんに玲央が一睨み。たったそれだけで降参とばかりに手を挙げる巴さんは年上には見えないな。
……すぐキレる玲央のほうは年下っぽく見えるけれども。

若干呆れ顔をしていた俺の元に不機嫌なままの玲央が寄ってきた。慌てて笑顔を作るも、玲央にはどうやらお見通しらしい。ため息をつかれたぞ。


「来い、次は仁だ」

「え? ちょ、玲央!?」


ぐい。腕を取られて引っ張られる。
慌てる俺に気使って歩みは遅いけれど、仁さんがなにをしたって言うのだ。落ち着けよ。
そんな俺たちを見る巴さんはやれやれと肩を竦めているのであった。

カウンター内でグラスを磨いていた仁さんは、玲央と引っ張られる俺を見て苦笑を浮かべていたけれど、スタッフルームの扉を開け、中へと促す。
え? なんでスタッフルームに? なんて思う俺を余所に、玲央の歩みは止まらないのであった。




 


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