*玲央side**
「さて、まず先に聞かせて欲しいんだけど、小虎くんがこうなったのはいつかな?」
「昨日の夜だ。こうなったとき俺は……野暮用でいなかったが、服を脱がせようとしたらこうなったらしい」
「……うん、そうだろうね」
近くに座る男がお見通しだと目線を下げる。そんな態度に少し苛立つが、黙って話の先を促した。
「小虎くんが通院していたことを君は……えぇと、」
「玲央だ。朝日向玲央」
「うん、玲央くんは知っていたのかな?」
「知らねぇ。悪いとは思ったが、昨日こいつの荷物を漁って診察券を見つけた。ついでにアンタの書いたメモもな、随分親しげじゃねぇか、其川拓美さんよ」
「それは兄としての憤りかな? だとしたら君は随分と勝手だね、暴力を奮っていたくせに」
「あ゛?」
「本当のことだろう? 若くて血の気が多いのは結構だが、子供にはならないでくれ」
思わず舌打ちがこぼれる。
事実に苛立つ自分の幼さを非難され、悔しさに拳を握った。
そんな俺の手に小虎が触れる。視線を向けると、悲しそうにする小虎の姿があった。
小さな声で悪いと呟けば、満足そうに微笑み手に持つ絵本を読みはじめる。
「離人症性障害」
「あ?」
「自身の身に起きていることなのに、まるで傍観者のように感じる障害だよ。そしてもう一つ、解離性障害。これらが小虎くんの病名だ」
「解離……二重人格か?」
「正確には違うのだけど……まぁ、そう解釈してもいいよ」
離人症性障害、解離性障害。
普段耳にすることのない単語に胸の奥が苦しくなった。
身の置き場がないことを、遠回しに叫ばれている気分だ。
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