*玲央side**
「僕が初めて小虎くんに会ったとき、彼はまるで抜け殻のようだった」
ぽつり。呟く男に視線を戻す。
どこか遠くを見つめる姿に、本意無い気持ちが溢れていくようで気分が悪い。
「そもそも、君たちのお父さんが急性アルコール中毒で亡くなったとき、連絡のつかないことを不審に思った君たちの叔父さんが家を訪れたときにはもう、小虎くんはなんの反応もしない、まるで人形のような状態に陥っていたんだ」
「アルコール中毒……」
「……そうだよ。君はそんなことも知らなかったのかい?」
「……つづけろ」
急性アルコール中毒。あんなクソッたれの死んだ理由なんぞ興味はなく、死んだというその事実だけを受け取っていた自分をまさか、今になって恥じることになるとは思わなかった。
そもそも、小虎が殴られていたことさえ俺は、いや、その可能性には多分……。
「……君たちの叔父さんとね、僕は知り合いだったこともあって小虎くんの治療を任されたんだ。一応これでも小虎くんのような子を多く担当してきたからね。
ゆっくりと時間をかけて小虎くんの傷を癒すつもりだったけれど、君が小虎くんを引き取るとそちらのおじい様から連絡があり、それを小虎くんに告げた次の日……驚いたことに、小虎くんは君がよく知る普通の人間になっていたんだ」
「……」
「それほど君という存在が小虎くんの中では大きいんだろうね。僕は正直安心したよ。小虎くんの傷はもちろんゆっくり治していくものだけど、君がいるのなら回復は早いだろうってね」
また握りしめた拳が、爪が皮膚に食い込むのが分かった。
口の中が乾いて歯を食いしばる。背けそうになる視線を、男から外すものか。
「――だけどその日、小虎くんの体に薬を塗るため服を脱いでもらったとき、今のような小虎くんが現れた」
抑えつける感情の波が、なにかを蝕んでいく音が聞こえる。
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