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その日は朝からお父さんも不機嫌だった。
お母さんとお兄ちゃんは大きな荷物を持って、どこかへ行ってしまうのだと言う。
その日が来るまで何度も何度も嫌だと言ったけど、お母さんは泣きながらごめんね、ごめんねと俺に言った。
お兄ちゃんはなにも言ってくれなかったけど、いつもより痛いことはしなかった。

行かないで。って言ったけど、二人は行くんだって歩き出す。
行かないで。って言ったけど、お母さんはごめんねと言って前を向く。
行かないで。って言ったけど、お兄ちゃんは清々した顔で前を向く。

お兄ちゃん、って言ったとき、お兄ちゃんは一度だけ振り向いた。
でも俺の顔を見て、すごく嫌な顔をしてまた前を向いた。そして姿が見えなくなるまでずっと、二人は振り向くことも、俺を連れだすこともなかった。

お仕事から帰ってきたお父さんに俺はいらない子なの? って聞いたら違うよ。と言った。
けれどたくさんお酒を飲んだある日、お父さんはいっぱい痛い痛いをした。
泣きながら止めてって叫んだよ。謝りながら許しって叫んだよ。
でもお父さんは、笑いながら俺をたくさん殴ったよ。

お兄ちゃんはね、知らないんだ。
俺のこと殴るけど、いっつも辛そうな顔をしてるの、知らないんだ。
痛いの痛いのとんでけーってやったけど、お兄ちゃんの痛い痛いは消えないんだ。

いっつもお兄ちゃんを追いかけるけど、姿が見えなくなると待ってくれるよ。
そのとき少しだけお兄ちゃんが泣きそうになること、お兄ちゃんはね、知らないんだ。

お父さんは初めて俺を殴った日から、俺をたくさん殴ったよ。
そうしたらなんだか体がね、動かなくなったよ。
殴られても、蹴られても、痛いのに動かなくなったよ。
お父さんはそんな俺に言うんだ。お前が悪いんだよ、愛してるんだよって。

俺が悪いんだ。全部、俺が悪いんだ。
だからお兄ちゃんを呼んでもね、お兄ちゃんは迎えに来ないんだ。
置いていかれたのも、殴られるのも、蹴られるのも、お兄ちゃんが助けにきてくれないのも全部、俺が悪いんだ。

愛してると言いながら、お父さんは今日もまた、俺を殴るよ。




 


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