「なぁ小虎。玲央って家じゃどんな感じ?」
「れお? ふちゅうでしゅよ? でもりょうりはしょっぱいれす」
「あ? 玲央って料理できんのか?」
「できましゅよ」
「んで全部しょっぱいのか?」
「しょっぱいれす」
俺の発言に一々笑いを堪える巴さんが肩を震わせながら焼酎をあおる。俺はちらりと手元の酒を見て、焼酎もいいなぁと考えていた。
「……でもしゃいきん、かえりおそいんれす。きのうなんか、どっかにとまっひゃみらいれ」
「泊まり? あぁ、昨日の女か」
「だれかしってりゅんれすか?」
「さてはお前、あんまテレビとか見ねぇな? ありゃ最近人気の歌姫さんだよ」
「うたひめしゃん?」
「そ。なんか今度のMVに玲央を使いてぇんだとさ」
MV? じゃあ昨日帰ってこなかったのは打ち合わせ? 打ち合わせで泊まりってあんの?
「ま、でも泊まりってことはそういうことなんだろうなぁ。いいねぇ、俺も有名人抱きてぇわ」
「……」
なんだよ。やっぱり楽しい一夜ってやつかよ。俺なんか待ってたんだぞ。早く玲央にありがとうって言いたくて、本当は寝れずにずっと期待してたんだ。
なのに玲央は女と……。
「……ふ、ぇ」
「!? お、おい小虎!?」
「巴てめぇ、なにトラ泣かしてんだ!」
バコッ! ふたたび巴さんの頭に空箱がヒットするも、巴さんは慌てた様子で俺の側に近寄ってくる。
「おいおい小虎、どうしたんだよ、え? お前あれか? 寂しいのか?」
「しょんなわけないれしょ! なんれおれがしゃみしいとかおもわなきゃなんないれすか!」
「はぁ? おい、今度はどうした」
「う〜〜、ともえしゃんのばかぁっ」
「……おい、罵られても喜ぶだけだからな、俺」
「へんちゃいめっ」
クソ、可愛いなお前。とか言いながら近づく巴さんが気持ち悪くて手を振り回すと、その振動でテーブルに置いてあった酒が落ちた。そんで俺の服にめちゃくちゃ跳ねた。
「ったく、なにしてんだお前。ほら、脱げ」
――と、巴さんが言いながら俺の服を捲った。
ひんやりとした外気を皮膚が感じ取った瞬間、言いようのない吐き気を催す。
巴さんの手が服を脱がせるため俺の背中を支えた瞬間、それまで保っていたなにかが音を立てて崩れた。
恐い、怖い、こわいこわい。やだ、やだよ、やめてよお父さん、もうやだってば。
許して、ごめんなさい、もうワガママ言わないから、もう殴らないで、蹴らないで、嫌いにならないで。
ごめんなさい、ごめんなさい、やだ、やだよ助けて、助けてお母さん、助けてお兄ちゃん、おにいちゃん、おにいちゃんっ!
「やらぁっ、やらやらっ! おにいちゃあん、おにいちゃんっ!」
「!? お、おい?」
「おいてかないれ、おいてかないれよぉ……にいちゃ……っ」
置いてかないでよ、お兄ちゃん……っ!
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