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「おう小虎、このあいだやったアレ、使ったか? 薄くていいだろ、アレ」


ため息をつく仁さんとの会話も早々に、俺の方へくるりと体を向けた巴さんが笑う。指で輪っかを作り上下に動かすのはぜひとも止めて頂きたい。


「ちゅかってましぇんよ」

「あ? おい、お前酔っ払ってんのか?」

「よってないれす。ひょっとろれちゅ、回んないらけれす」

「はははっ! おいもっとなんかしゃべってみろよ。おもしれー」


むむむ。ちょっと呂律が回らないからって、馬鹿にすんなよチクショウ。


「巴しゃんはなんのお仕事してるんれすか」

「仕事かぁ? なんだと思う?」

「……にーと?」

「おいコラ」


ぐー。俺の頬を引っ張る巴さん。その手をぺちりと叩くと笑われた。


「官能小説家ってやつだよ。エログロ専門のな」

「かんのーしょーしぇちゅか」

「ぷはっ! そうそう、エログロな。言ってみ?」

「えりょぎゅろ」

「あははははっ!」


ぽわぽわしてきた頭で爆笑する巴さんを凝視する。仁さんはそんな巴さんの頭に煙草の空箱を投げていた。


「おい巴、トラになに教えてやがる」

「だってこいつ、おもしれー」

「アホなこと言ってねぇで水持って来てやれ」

「しゃあねーなー」


がっちり腰を抱き込み、夢の世界へ旅立った雄樹がくっついた仁さんは動けずにため息をつく。
巴さんは迷わず厨房のほうへ行くと、グラスに水を注いで戻ってきた。


「ほら飲め、酔っ払い」

「よってましぇん。ろれちゅまわんないらけれす」

「それを酔っ払いって言うんだよ。黙って飲まねぇと口移しすっぞコラ」

「やれす」


首を横に振り、大人しく水を受け取る。ずっと酒を注いできた体に無味無臭な水は味気がなく、つまらない。
すぐに酒に手を伸ばすと、巴さんは笑いながら新しい酒瓶を取りに行った。


「おいトラ、あんま飲むと吐くぞ」

「らいじょうぶれす」


心配そうにこちらを見る仁さんに満面な笑みを浮かべると、彼は深い深いため息をついたのだった。




 


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