「あの、仕事戻りたいんですけど」
「んー、美味しい肴を逃がすのはもったいねぇなぁ、と思ってよぉ」
「……はぁー……」
ニヤニヤ。笑う巴さんは至極楽しそうではあるが、本能的にこの人に近づくのは危険だと感じている。西さん、いや変態に近い匂いがするというかなんというか。
俺の腕を掴む巴さんの手をぺちりと軽く叩き、少し睨む。
「ダメ、です」
「……」
なぜか俺の行動に呆気に取られている内に抜け出し、さっさとエレベーターへ。扉が閉まる直前、ガンッと大きな音がして、巴さんが足を突っ込んできた。なにしてんだこの人。
「お前、可愛すぎんだろ」
「はぁ?」
本当、この人なんなんだ。
っておい、乗り込んでくんな。どこのホラゲーだよおい!
「卵味噌、デリバリーな?」
「……はい」
んでサラリと注文するとかマジ分からん人だ。
それからカシストに戻り、またお粥を作ってデリバリー。毎度のことながら、もうちょい良い方法はないのだろうか。んー、でもきっとこれが一番なんだろうけどなー。
そんなことを思いながらエレベーターの扉が開いたので、前へ一歩足を進めた瞬間、デスリカに流れる爆音以上のざわつきがあった。
螺旋階段前にはすごい人だかりだし、スタッフの人たちもちょっと慌てた感じである。
なんだろう? 意識がそちらに向きつつも、カウンターで待っている巴さんの元へ。
「お待たせしました。あれ、なんですか?」
「んー? なーんか有名人らしいぜ? ま、んなことよりサンキューな。いただきまーす」
「? はい、召し上がれ。じゃあ俺はこれで」
「――なぁ小虎」
「はい?」
人だかりは気になるが、やはり仕事優先の俺が去ろうとすれば、またも巴さんに呼び止められた。
振り返る俺の視界には、さっそくお粥を食べている巴さんの背中が。
「玲央ってよぉ、誰ともキスしねーんだわ」
はぁ?
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