×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

18 - 7



「正直な、メニュー増やせっつったときは、ここまでトラが真剣になるとは思わなかった」


夜の部の開店時間になり、いつものように仕事をこなす俺の隣で、シェーカーを振る仁さんが呟いた。


「適当、ってわけでもねぇけど、軽い気持ちで指示したことは認める。悪かったな」

「い、いえ! いえ、全然、俺、働くのも初めてで、本当なんにも分かってないから迷惑ばっかかけて、てか言われたことしかしてなくて、謝るのは俺の方です、ほんと、すみません」


慌てて首を横に振りながら謝る俺に、視線だけをこちらに向けた仁さんが微笑む。


「ありがとよ、お前ますます良い男になったな」

「へ!?」

「はははっ!」


なんだか悪戯気に笑う仁さんの言葉に、恥ずかしさと嬉しさがこみ上げる。良い男ってのは無いと思うが、でもそう言ってくれる気持ちが純粋に嬉しいのだ。
そんな俺と仁さんを見た雄樹が「きーっ! 浮気よーっ!」と言いながらエプロンをかじって引っ張っていた。アホめ。

それからいつものようにデスリカへデリバリーしに行くと、カウンターに座って緑のモヒカンよろしく夏輝(なつき)さんと話す巴さんがいた。
俺に気づいた夏輝さんにお粥を渡し、ニヤニヤ笑ってくる巴さんをちらりと見る。目が合った瞬間、すっごくイイ笑顔を向けられたんだが、なんだおい。


「よぉ小虎、本当にデリバリーしてんだなぁ?」

「どうも。仕事ですからね」

「いいねぇ、頑張ってる若者の姿は良い肴になる」

「……はぁ、巴さんも若者ですよね?」

「あ? 俺ぁ22だぞ? お前に比べりゃ年寄りだろ?」

「いやいや、世間ではまだ若者ですよ、それ」


22で年寄りって、世間に喧嘩を売ってるんだろうか、この人は。
とはいえ仕事中で長話をする気はなく、それじゃあと背を向けた。はずなのだが、なぜか腕を掴まれていて動けない。なんなんだ、一体。




 


しおりを挟む / 戻る