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「でも……」

「うん?」

「……でも、昨日、玲央がケーキをくれたんです。普通の、ショートケーキ」

「……玲央がケーキ……」


ありえない話に驚いたのか、目を丸くした仁さんが咳払いをして話を促した。


「それ、すげー美味かったんです。ただのショートケーキだけど、スポンジから生クリーム、苺やデコレーション、細部までこだわりが感じられて、味だってしつこくなくて、でも適度な甘さがクセになって、また食べたいって思うくらい、すげー美味かったんです」


はぁっと大きく息を吐いて、ゆっくりと吸う。握った拳が震えていた気がしたけれど、振り払ってもう一度、仁さんを見つめる。


「だからっ、だから俺、分かんなくなったんです。今までのお粥にただおかずを付けるのと、今のお粥をもっと美味しくさせること、なにが本当は大事なのか、俺……分かんなくなって……」

「……」


ぐちゃぐちゃ。頭の中が色んな人の言葉でいっぱいだ。
みんなそれぞれ自分というものがあって、好きも嫌いも、感じ方も全部違う。


「だからお願いします、仁さん。こんな俺に助言をください!」


そのすべてを満足させたいなんてワガママだけど、無謀だけど、俺にだって誇りはある。
美味しいと笑ってくれるみんなの笑顔を、幸せだと感じる俺がここにいる。

深く深く頭を下げた俺に、しばらく黙っていた仁さんが「トラ」と呼んだ。ゆっくり顔を上げると、仁さんはなんだか困ったように笑っていた。


「ありがとな。トラが俺を頼ってくれたこと、すげぇ嬉しい。けどトラ、悪い」

「……え?」


苦笑を浮かべ、頭を掻く仁さんが深く息を吐く。


「涼しい顔してっけどよ、俺もまだまだ手探りなんだわ。だからよ、トラ。一緒に悩んでいかねぇか?」

「……じん、さん……」

「なにが合ってるとか、どうすりゃ客が喜ぶとか、俺も分かねぇけどよ、トラの気持ちには応えてやりてぇ。悪いな、格好悪くてよ」


ブンブン。顔を思いっきり横に振る。だって、すげー嬉しい。こんな気持ちもまとめられない俺の言葉を、仁さんは真摯に受け取ってくれたんだ。一緒に悩もうって、言ってくれたんだ。


「俺も一緒に悩むよ!」


いつのまにか仁さんのうしろから彼に抱き着く雄樹がそう叫べば、俺はますます嬉しくなって笑った。




 


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