冷や汗を垂らしながら微妙な笑みを浮かべる俺に、そんな玲央がふんっと鼻を鳴らした。
「寝すぎて眠くねーんだろ? なら付き合え」
「……へ? 晩酌、に?」
「それ以外になにがあんだよ」
「え……昨日あんなに飲んでたじゃん」
「あんなマズイ酒、覚えちゃいねー」
マズイ酒って……それは巴さんがいたから、ということだろうか。いや、深くは聞くまい。
部屋を出る玲央にしぶしぶついていくと、テーブルにはケーキがひとつ、ちょこんと置かれていた。なにあれ。
思わずソファーに座る玲央を見つめるが、なにも反応しちゃくれなかった。
「これ、なに」
「褒美」
「……はい?」
なので指をさして聞いてみると、なんだか不釣り合いな単語が玲央の口から出てきた。ほ、褒美……?
「なん、の?」
「さぁ? なんだろうな?」
とても愉快そうに笑いながら、玲央はビールをあおる。
俺はそんな玲央とケーキとを交互に見つめ、ふらふらと床に腰を下ろした。
まったく持って意味は分からないが、眠くもないし美味しそうだし、食べよう。うん。
「いただきます」
「めしあがれ」
と、クツクツ笑う玲央の言葉を聞き、丁寧に添えられたフォークを持ってケーキを頂いてみる。
瞬間、その美味しさに驚いた。見た目はただのショートケーキなのに、ただ甘いだけの代物じゃない。スポンジも適度な柔らかさで、クリームが甘くまろやかなのにしつこくなく、後味はさっぱり系だ。
「これ! 美味しい!」
「そりゃ良かった」
美味しさに感動して玲央のほうへ振り向くと、楽しそうに笑う姿が視界に映る。
なんだか気恥ずかしさと嬉しさで顔がニヤけてしまう俺は、やっぱり現金な奴だなぁ。
「……今日、ごめんな」
「あ?」
「飲み明かしちゃったから、せっかく出かけようとしてくれたのに……ごめん」
そしたら急に頭がすっきりして、俺は素直にそう告げていた。
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