うしろでソファーに座る玲央が動いたのか、ぎしりと音が鳴る。次の瞬間、頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「俺こそ悪かった。昔の知り合いとはいえ、お前まで巻き込んじまったな」
「……んーん。楽しかったよ?」
大きな手が無遠慮に撫でまわしてくる温かさに目を細めながら、じっとケーキを見つめる。なんだか頬が熱くなってきたのは、多分気のせい。
「来週、は行けるか分かんないけど、弁当作るからちゃんと食えよな」
「休みのことなら俺から仁に言っといてやる。弁当は残してほしくなきゃ美味いの作るんだな」
「へ? 休み、俺言うよ?」
「今日も休ませたのに来週も休むっつったら仁のやつ、怒んだろうが」
会話の内容にびっくりして振り向くと、思いのほか近くにいた玲央にさらに驚いてしまった。そんな俺を見下ろす玲央の表情は、少し柔らかい。
「でも……俺のことなのに、玲央にまかせんのは嫌だ」
「……じゃあフォローはすっから、頑張って休みとって来い」
「うん、そーする」
頷き再び前を向く。食べている途中だったケーキにフォークを刺し、美味しさに頬が緩む。
てかこれ本当に美味しいなー。なんだろ、材料が違うのはそうだろうけど、混ぜ方の段階で違うのかな? 焼き方? 温度? んー、ケーキとか作らないから分かんないけど、でも本当にこれ、美味しい。
「……美味しい、すごく」
「あ?」
「普通のショートケーキなのに、全然違う」
「そりゃ人気店のだしな」
人気店?
「よく知ってたね、このケーキのお店」
「いいから食え」
ぐしゃり。撫でられた頭が玲央の動きに連動してぐらり、ぐらりと揺れる。
とっても美味しいケーキに、玲央といる穏やかな時間。幸せで仕方がないのに、どうしてか俺の胸はモヤモヤしていた。
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