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そんなアホな俺に一度視線を向けたかと思うと、玲央は自分が殴り飛ばした西さんの元へ行き、その胸倉を掴んで持ち上げた。……持ち上げやがった。こ、こぇえ。


「ぐっ……おい、おいおい玲央、落ち着けってぇ」

「舌噛みたくなきゃ黙ってろ」


と、一言呟いたかと思えば、なんの躊躇いもなく拳を振り上げた。俺は慌ててそんな玲央の背中にしがみつく。ピクリと動いた獣が構えたまま俺を見下ろした。


「……玲央、ダメだって……」

「……」


あぁ、またも情けない声に自分で呆れてしまう。
黙ったまま動かない玲央は、しばらくそうしていたかと思うと西さんから手を離し、トイレから追い出した。

ふぅー。西さんがいなくなったこと、玲央が殴らなかったこと、二重の意味で安堵の息を漏らすとこちらに戻ってきた獣に肩を押された。トンッと背中を壁にぶつけ、痛みがないとはいえ不審に思って見上げた瞬間、見るべきではなかったと後悔した。

――そこにいたのは、獲物を睨む獣の姿。
かち合った視線が逸らせない。恐怖で足が竦む。寒くはないはずなのに体の奥がすっかり冷えて、息の仕方も忘れてしまった。


「れ……お……」


それでも勇気を振り絞って声を出すと、獣はその手を伸ばし、自分でつけた噛み跡を眺めていたかと思うと、


「い……っ!?」


さらに深く、噛みついて来たのである。
しかしそれはすでに甘噛みの範囲を悠々に超え、肉がみちみちと歯で潰されていく感触が分かるほどに深い。痛みに出てきた涙など気にする余裕もなく、俺は震える手で獣から逃れようと力を込めた。


ぢゅう……。

「ひゃっ!?」


その瞬間、獣は血肉を味わうように舌を這わせ、そこに吸い付いてきたのである。驚きに体が跳ねるが、獣はそんな俺の体を押さえ、何度も同じ個所を舐めては吸い、しまいには甘噛みまでしている。




 


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