気心の知れたメンバーで飲む酒は喉を通り、俺はトイレに席を立つ。
店の雰囲気を残したままのトイレは少しほの暗く、微かに漂う芳香剤の匂いに少しだけ酒が回った。
「お、酔っ払いはっけーん」
「西さん」
トイレを済ませ手を洗っていた俺に、にこやかに登場した西さんが近づいてきた。その頬は少し赤く、酔っ払いとは明らかに西さんのほうである。まぁ、言ってはやらんが。
「あの写真、よく撮れてただろ?」
「あはは。えぇ、まぁ。でも正直、見返すのは勘弁です」
「おいおい、兄ちゃんのあんな一面、滅多に見れねーんだから見てくれよな」
「はい、そんな玲央を撮ってくれた西さんの腕は認めてますよ、一応」
なんだとこらー。と言いながら西さんが俺の頬を引っ張った。すぐに離れた箇所を手で擦ると、いつのまにかジッと凝視していた西さんの目線とかち合う。
「なぁ、またモデルしてみない?」
「断固拒否します」
「はははっ! 返事すんのはえーよ!」
ゲラゲラ。一人爆笑した西さんが生理的に溢れた涙を拭いながら、こちらに目線を戻す。
「ところでこれ、なに?」
「え? ……あっ!」
ビリッ。と音がして、玲央につけられた噛み跡が露わになる。手で隠そうとする俺の手首を掴んだ西さんは、嫌らしい笑みを浮かべてその場所を観察してきた。
「ふーん……なにお前、まだ玲央の女やってんの?」
「はぁ?」
「これ、そういうことだろ?」
噛み跡を指で突きながら、近づいた西さんが上目づかいに俺を見る。一瞬ドキリとしたが、あの自販機コーナーでの変態具合を思い出し、キッと睨んだ。
「玲央って噛み癖あんじゃん? 本人は気づいてねぇみたいだけどさー」
「かみ、ぐせ?」
「ん? あれ? 知らない?」
噛み癖。以前、同じように噛まれたとき、その箇所を見た仁さんも言っていたことを思い出す。つい知りたくて見上げる俺を、西さんはニタニタ笑いながら見下ろした。
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