それから仁さんはお客さん一人一人に頭を下げ、カシストは貸切状態に。
テーブルに移動し、仁さんは俺と雄樹を自分の近くに座らせ、ソファーで豪快に笑う巴さんとは距離を持たせてくれた。
強引に巴さんの横に座らされた玲央はいたく不機嫌ではあるが。
「いやぁ〜、感慨深いねぇ、歴代の総長が並ぶってのはさー」
「おう、司のくれた酒もますます美味くなる。な、玲央」
「……」
歴代総長、司さん、巴さん、玲央の三人が並ぶ様は確かに圧巻ではあるが、一人だけテンションが違い過ぎて浮いている。二人はそんなことなど気にならないのか、はたまた慣れているのか爆笑だ。
「そういや言うのが遅くなったな。巴、おかえりー」
「はははっ! おう、ただいま」
チンッ。上機嫌な司さんと巴さんがグラスを重ねる。玲央はシカトで一人、酒をあおっていやがる。
そんな光景に丸イスに座る仁さんは煙草を吸いはじめ、同じように丸イスに座る豹牙先輩は微笑を浮かべながら司さんたちのお酒を作っていた。
「ところで獄中生活はどうだったよ?」
――そう、それ。さっきは呆気に取られて流していたが、巴さんは刑務所に入っていたのか?
司さんの意地悪な笑み以上にイイ笑顔を浮かべる巴さんは、手にある酒を一気にあおり、グラスを豹牙先輩に手渡した。
「まぁ中々楽しかったぜ。いい経験させてもらったな」
「ふーん? 欲望まみれのお前には辛かったんじゃねーの?」
「まぁ血の気の多い奴ばっかだったからなぁ、思わず色々疼いちまったわな、はははっ!」
仁さんの隣に座る雄樹が会話の流れに不穏な空気を感じたのか、俺をちらりと見てきた。あぁ、今はいつも以上にお前の癒しが眩しいよ、雄樹。
「でもまぁ、司がすぐ出してくれるって分かってたからな、俺にしちゃ珍しく大人しくしといたよ」
「へぇ〜?」
ニヤニヤ、ニコニコ。見ているだけでお腹がいっぱいになる悪い笑顔に、俺は酒を口に運んだのであった。
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