「玲央くんよぉ、おめーブラコンだったのか? あん? 弱みは見せんなって教えただろ? あんまり平和ボケしてっとその首……食っちまうぞ?」
「どうとでも言え」
「おいおいあんまり煽るなって。我慢できなくなる」
なんだか険悪な雰囲気なのだが、会話の方向性がおかしくはないだろうか?
ただの喧嘩のあおりにしては少し……違うような。そんな俺に気づいた巴さんがニコリと微笑む。同時に注文の品を取りに来た雄樹を見た仁さんが素早くその耳を手でふさいだ。
「またフラれちまった」
……………は?
「一度でいいから食ってみてぇんだけどよ、全然屈服してくんねぇんだよなぁ、小虎のお兄ちゃん」
……………はい?
「だから傷ついた俺を慰めてくんねーか? なぁ、こと「巴」
驚愕する俺を無視して話をつづける巴さんを止めたのは、ここに来て一番の怒りを含んだ玲央の声だった。
尋常じゃない雰囲気は見た者から抵抗を奪う。体の自由を取られ、頭を下げて許しを乞うほどもの恐ろしく、美しい。
「同じことを言わせるな」
金の髪から覗く赤い瞳は、裸足で逃げ出したくなるほど凶暴なのに荘厳。ゴクリと、誰かの喉が鳴った。
そんなとき、カシストの出入口であるエレベーターの開く音がしたかと思うと、パーンッ! とクラッカーの音が店内に木霊した。張りつめていた空気は当然なくなり、みなが音の正体をじとりと見る。
「巴ぇ〜、出所おめでとーう」
そこにいたのは満面な笑みでクラッカーを手に持つ司さんと、その後ろでこめかみを抑える豹牙先輩だった。
俺たちの言いようのない脱力した空気もなんのその、司さんは巴さんの隣に腰をおろし、豹牙先輩が持っていた日本酒をドンッ! とカウンターに置いた。
「つーわけで仁、今からカシストは貸切な。客にはデスリカに移動してもらえ。あ、もちろんサービスはするって伝えといてね」
「……うっぜぇ……」
ニコリと微笑む司さんとは逆に、未だ雄樹の耳を塞ぐ仁さんの顔は凶悪である。
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