「玲央、ありがと……すごい嬉しい」
「……あぁ」
うしろから抱きこまれる形で良かったと思う。これでもし正面だったなら、今の俺のアホ面が丸見えだった。それでもニヤける俺の首元に、玲央が顔を埋めてくる。
「でも玲央、俺はもういっぱいお礼もらってるよ」
「はぁ?」
「助けに来てくれたし、おかえりって言ってくれた。それに母さんにも一緒に挨拶行けただろ? なによりこうして俺のこと、面倒見てくれてるじゃん? ほんと、貰いすぎて逆にお礼しなきゃなんねーくらい」
あはは。そう言って笑った俺に、玲央が勢いよく顔を上げてきた。ゴッと音がして、玲央の額と俺の耳が衝突したが、まぁ許そう。
なにを言われるのかと身構える俺に、玲央は深く深くため息をつき、もう一度顔を埋めてきたかと思うと、抱きしめる力をますます増やした。ぐ、苦しいのですが。
「もっと甘えろ」
「え?」
「俺になにもさせねぇ気か。もっと甘えて、ワガママ言えよ」
「……」
と、言われましても。
「俺、家でこうしてのんびりしてんの、好きだよ?」
「……欲がねぇな、てめぇはよ」
「あはははは」
んー、だって実際こうしてんの好きだし。家でのんびりするってこと、玲央と二人で暮らすようになってから知ったし。なにより、玲央に触られているのは安心する。
――ん? いやいや待て。
触られて安心ってなんか変じゃないか? いや、頭を撫でるのと一緒か?
んん? じゃあこうやって後ろから抱きしめるのはどうなんだ? 普通なのか? これ、普通か?
「土曜日、バイト休め」
「へ?」
「早起きして弁当作れよ」
「え?」
「出かけんぞ馬鹿トラ。返事」
「……はい……?」
疑問形ではあるが、返事をした俺に獣は満足そうに噛みついた。翌朝、ガーゼで首を隠したのは言うまでもあるまい。なんなの一体。
いや、それより問題なのは以前より不快感を感じていない自分自身だ。やばくね? 俺。
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