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「なー、トラって彼女いねぇの?」

「いたらこんなとこでお粥作ってませんよ」

「だよなー」


納得されるのも癪だが不満は飲み込んでおこう。突っ込んだら負けだ。


「じゃあトラ、合コン行くか? メンツ足りねぇんだよ」

「いやいや、男前目当ての女子たちが俺なんか見たら悲しみますって」

「大丈夫だって、俺らの可愛い後輩だって言うからよ」

「すげー嘘くせーです」


あははっ! 俺の顔を見て爆笑する不良たち。そんな声につられて戻ってきた雄樹が、俺の腕を取って叫んだ。


「どこの牛の骨かも分からん女にトラちゃんはやらん!」

「……馬、な」


つい先日終えたばかりのテストで恐ろしい点数を叩きだした人物の台詞とは思えない言葉に、不良たちはまたも爆笑するのだった。

それから午後は適当に時間を潰し、俺と雄樹はバイト先カシストへ。
学校が終わって直で来た俺たちとは違い、私服姿でうろつく非行少年、少女は一体いつ学校から抜け出したのやら。


「仁さん、ちょっと相談があるんですけど」

「おー? どうした?」


学ランを脱いで定位置に立つ俺の横で、グラスを磨いていた仁さんに声をかける。
こちらを向く彼の表情は心なしか柔らかい。なにか良いことでもあったのだろうか?


「お粥のメニューなんですけど、よく写真で見るような小皿? みたいなのに色んなおかず置いたらどうかなって思うんです」

「長皿のことか? 悪くねぇ案だとは思うが……」

「仁さん前言ってたじゃないですか、メニューは多い方がいいって。でもただ増やすより、おかずを数種類つけたお粥のほうがいいんじゃないかなって思いまして」

「ふーん?」


勝手に持ちこんではおかずを俺に預ける不良たちを見ているうちに思い至った案を語る俺を見る仁さんの瞳が、今度は悪戯っぽく弧を描いた。


「随分やる気じゃねぇか、なぁ、トラ?」


そんなニヒルな笑みに、思わず苦笑が浮かんだのは言うまでもあるまい。




 


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