「しっかし驚いたー。なんでトラちゃんってばほいほい仲良くしてんのー! 浮気よ浮気だわー!」
「へいへい。俺は浮気もんですよ」
「きぃー! 否定しないのね! なんてやつなの!」
雄樹に感化されてしまったのか、最近の俺は自分でも疑うくらいにアホになったと思う、マジで。
「それよりあの人、知り合い?」
「……まぁね。つーかブラックマリアの副総長だよ、あの人」
「げぇっ!?」
驚きすぎて変な声が出てしまった。ブラックマリアの副総長!? それは、つまり、兄の関係者!?
顔を青くしている俺をじっとりと見つめる雄樹はため息をついた。
「やっぱり知らなかったんだ。もー、マジでトラちゃんって目が離せなーい」
「あ? それお前のほうだろ。絶対迷子になるタイプじゃん、雄樹って」
「なりませんー。むしろ迷子放送で親を呼ぶタイプですー」
「おい、それってお前が迷子だって分かってるか?」
きゅ。蛇口をひねり、洗い物を終える。
近くに置いてあったタオルで腕を拭いて、俺は遅い昼食を取るために弁当を広げた。
「でも雄樹ってやっぱすげーな。あの人が副総長って知ってて喧嘩売るんだもん」
「えー? 俺、基本的にブラックマリアの連中嫌いだしー」
「あ、そーなんだ?」
「うん。ごめんねトラちゃん」
なにがごめんなんだ。兄がそこの総長だからか? 別にどうでもいいのだが。
それより……
「つーか聞いていいの?」
「ん? なにをー?」
「……どうして仲悪いのか……とか?」
「……あー……ん、いいけど」
もごもご、濁しながら視線をそらす。
そんな雄樹に笑いそうになって、俺はウィンナーを咀嚼した。
「いいよ。言いたくないなら聞かねーし。俺はお前がアホでいればそれでいいよ」
弁当のほうを向いたままそう言えば、なぜか隣で煙草を吸う雄樹は呟いた。
「……やだ、私、抱かれてもいい……」
俺は絶対に抱きたくない。
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