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「……は?」


正直、内山が戻ってきてくれて助かった。なんて思う間もなく、なぜか笑顔でやってきた内山は隆二さんを見るなり顔を歪ませ、どこから出しているのか分からない低い声で威嚇したのだった。
驚いて隆二さんのほうへ視線を向けると、彼は少しだけ困ったようにスプーンを置く。


「隆二さん? は? なに、なんでアンタがここにいんの?」

「落ち着け。別に変なことはしてねーよ」

「当たり前だろーが。ボケてんじゃねーよ」


瞳孔を開き切った内山が隆二さんのほうへと寄っていく。今まで見たこともない内山の姿に、俺は驚いて固まったままだった。
隆二さんはそんな俺と内山を交互に見ると、ため息を一つこぼす。


「雄樹、誤解すんな。俺はお粥食いに来ただけだよ」

「うっせ。しゃべんな聞きたくねぇんだよアンタの声なんて。つーか馴れ馴れしく名前呼んでんじゃねぇよ」

「……はぁ。分かった、分かった」


降参です、とでも言うように両手をあげた隆二さんは肩を落とし、俺の方に顔を向ける。


「お粥、美味しかったよ。最後まで食えなかったけど、ありがとな、小虎」

「ふざけんなっ!」


小虎。隆二さんが俺の名を言った途端、内山は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。さすがにビクッと震えてしまえば、隆二さんがまたため息をつく。


「怒るのはいいけどよ、雄樹、お前ダチビビらせてんじゃねーよ」


少しだけ低音になったその声音に、ハッとしたように内山が俺を見る。
ビクついてはいたが、これは驚きなんだ、内山よ。


「……トラ、ちゃ」


罰の悪そうな顔をした内山が俺の名を呼ぶ。
それを見ていた隆二さんは内山の横を通り過ぎ、なぜか机の上に千円を置くと出て行った。


「トラ、ちゃ……」

「ん? あ、うん?」

「ごめ、俺……ちがくて」

「どうした?」


肩を震わせて、内山がそろりそろりと俺の方へ寄ってくる。
場違いなことだが、俺はそんな内山が小鹿のように見えていた。




 


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