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「朝日向……って呼ぶのはちょっと危ねーから小虎って呼んでもいい?」

「あ、はい……あの、俺は」

「俺のことは隆二でいいよ、小虎」


ふわり。まるで空気が浄化されていくような笑みだ。
この人が俺の兄だったならどんなに良かっただろうか。

不良でもいい。普段は喧嘩をしてようが、女を抱いていようがどうでもいい。
ただ、少しくらい兄として俺の頭を撫でてくれれば……――。

そこまで考えて、俺は首を横に振る。
考えていたことを追い出そうと鍋に目をやって、もう十分煮えたお粥の火を止める。

スプーンと小皿を先に置いて、できあがったお粥を隆二さんの前に運んだ。


「あー、うまそー。なんか食欲湧いてきたわ」


湯気の立つお粥を見て、隆二さんはそう言う。
小皿に盛ることもなくスプーンをそのままお粥の入った鍋にさすと、フーと息を吹きかけることなく口へと運んだ。
舌で転がすように味わったあと、彼の喉仏が上下に動く。


「ん。これ美味いね。なんか染みる」

「……どーも」


感想を伝えた彼は、その意識をお粥へと向け、再び口に運んでいく。

こうして俺が作った料理を食べてくれたら。まずい、なんて言葉でもいい。感想を言ってもらえたら。
脳裏にいつも手つかずの兄に作った料理が浮かび、少しだけ悲しい気持ちになった。
なんだか、そんな自分が情けない。


「トラちゃーん! 実はエスパーなんでしょー!」


そんな空気をぶち壊して調理室に飛び込んできたのは、恐らく返り血であろうもので白いシャツを汚した内山だった。




 


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