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「……あります、けど」

「マジ? 良かった。二日酔いでさ、辛かったんだよね」


固まってしまった俺をよそにその不良はマイペースに近寄ってきた。
俺が洗い物をしている台のうしろのほうに腰を下ろすと、手慣れたように煙草を取り出し、火をつける。


「あ。ごめん、禁煙?」

「や、違いますけど……あの、梅……と、卵味噌……」

「んー、梅で。さっぱりしたいし」

「はい」


比較的軟派な雰囲気をさらす不良は俺の返事を聞くと、人当りのよさそうな笑みを浮かべる。
なんだか仁さんと似ているなどと思いながら、俺は洗い物を中断してお粥を作り始めた。

鍋を火にかけて、ちらりと不良を見る。
茶髪で短めのウルフヘアーがよく似合っている。控えめに飾られた黒いピアスも、痛そうではあるが似合っている。
兄ほどではないにしろ、整った顔をしていた。


「ん? なに?」

「あ、いや、なんでもない、です」

「はは、うん」


俺の視線に気づいた男は優しげな眼を向ける。慌てて俺が目をそらせば、クスクスと上品にも聞こえる笑い声が聞こえてきた。


「ね、灰皿ある? 灰がやばい」

「え、あ。す、すみませんっ」


そう言われ、灰皿を探した。そういったことはすべて内山が勝手にやっていたので気が付かなかった。
すぐに煙草の吸殻が残っている灰皿を見つけ、その中身を三角コーナーに捨てて空になったそれを男の前に置いた。


「助かった。ありがとな」

「いえ……」


ニッ。無邪気な笑顔は不良には不釣り合いな爽やかなもので、少しだけ困惑する。
なんだか、雰囲気が……まるで、そうまるで……お兄ちゃん、みたいな。


「ね、名前なんて言うの?」

「え……?」

「あ、ごめんごめん。先に名乗れって話だよな。俺は隆二、高科隆二(たかしなりゅうじ)」

「……朝日向」

「朝日向? 下の名前は?」

「……小虎」

「小虎? はは、可愛い名前じゃん」


そういって、高科隆二は笑った。その笑顔はやっぱり、なんだか無邪気なものだった。




 


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