朝食後、一服を終えた玲央は自分の部屋のクローゼットを漁っていた。
いつもは綺麗に整理された玲央の部屋には今、ブランドの紙袋が大量に並んでいる。
俺はしばらくそんな様子をリビングから眺めていたが、洗濯機が呼んだので脱衣所へと向かった。
カゴに二人分の洗濯物をつめこんでいるとき、リビングのテーブルに置いたままの携帯が鳴った。
「はい、もしもし?」
『小虎? おはよう』
「あ、志狼。おはよう」
ろくに相手も見ずに電話に出ると、声の主は志狼だった。
心なしか明るい声音に一人息をつくと、志狼はすぐに話をはじめた。
『あのさ、昨日はありがとう。小虎がいたから、逃げずにすんだ』
「え? あぁ、うん、どういたしまして」
『うん……それで、さ』
「うん?」
どこか歯切りの悪い言葉に、促すように相づちを打つ。
電話の向こうで志狼が深い息を吐いた気がした。
『俺、一度実家に戻るよ』
「――え?」
『戻って、今度はちゃんと、真っ正面から立ち向かってみようと思う』
ひどく落ち着いた声に、志狼の姿が脳裏に浮かぶ。
同い年のくせに落ち着いていて、でもやっぱり、大人から見たら子供。
色んなものにがんじがらめになりながら、それでも必死に生きている彼の姿。
「……そっか、うん。……そっか」
『うん……実はさ、あと十分もしないで立つんだ』
「え……? 立つって、え、今?!」
慌てて一度携帯を離して時間を見る。
十分もしないで立つって、それじゃあ見送りにもいけない。
「おま……っ、急すぎるだろ。見送りにもいけねぇじゃん」
『うん、ごめん。でも、格好つけさせて』
「格好?」
『……あんな姿見られたあとに言うのも変だけど、帰ってきたとき、胸張れるようにさ、今は格好くらいつけさせてよ』
そう言う志狼の声の後ろからアナウンスが聞こえてきた。
駅だろうその場所は、人の喧騒が止みそうにない。
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