「……そうだね。玲央にはもったいないかも」
意地悪く呟いてやると、玲央は眉間にしわを寄せた。
「人に言われると腹立つな」
「ごめんごめん。でも、泉ちゃんもさぁ……きっと玲央のこと、良い男だからもったいないって言うよ。言うと思うよ」
「……」
俺も見もしないテレビのほうに体を向けたまま、そう言った。
なにかに納得したのか、それとも俺の返事を予想できていたのか、玲央は煙草を吸いはじめたのだった。
それから俺が風呂に入り、上がってくる頃にはまた玲央の料理――相変わらずしょっぱいのだけど――が出来ていて一週間休みを取ってまで向かう目的地について教えてくれたのである。
新幹線で3時間あまり。そこからバスを何本か乗り継いで……一軒家だがかなり古いとのこと。
「母さんの……実家」
「あぁ、田舎だけどな」
今現在、俺と玲央のじいちゃん、ばあちゃんが住んでいるその家こそ、今回の目的地なのだという。
「こっちに墓立てるわけにもいかねぇし、ってもおふくろの家の墓に俺らを入れるわけにもいかねぇから、自分で墓立てたんだよ」
「……じゃあ、母さんは今、一人ってこと?」
「まぁ、そうなるわな」
新しい墓にたった一人、眠っている母さんの姿を想像する。それだけで胸が締めつけられた。
顔に出ていたのか、玲央が眉間にしわを寄せながら紫煙を吐き出す。
「――てめぇが思ってるほど、お袋は可哀想じゃねぇよ」
「え?」
ふいにかけられた言葉の意味がすぐには理解できなくて、思わず声を上げる。
だけどやはり、玲央の眉間には深いしわがくっきりと刻まれていた。
「……これから毎年、会いにいきゃいい。そしたら、お袋だって満足すんだろ」
「……」
声が出なかった。いや、出せなかった。
だって、今言った台詞は……それは、そこには――未来があったから。
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