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『夏休み中、できるだけカシストに居座るよう玲央に言っとけ。それで一週間の休暇と泉のことは許してやる』


泉ちゃんが帰ってから店を閉めた仁さんがそう告げた。
一週間の休みのことはまだ話していなかったのだが……一体いつのまに玲央は話してくれていたのだろうか。

帰路について息を吐く――今日は色々あったな。ふとそう思う。
志狼と梶原さんの家族という深いものを目の当たりにし、泉ちゃんというか弱く、強い女性に振り回された。
だけど、そのどちらもキラキラと、まるで朝露のように清らかなものだった。


「ただいまー」


まだ明かりの点いていた自宅に、玲央の気配を探る。
ふて腐れていたらどうしようか。
リビングの扉をあけると、意外にも玲央は平然とテレビを見ていた。
そろりそろりと近づいてみるが、玲央には気配でも読めるらしい。軽く頭をこちらに向けてきた。


「泉のやつ、どうした」

「ん? んー……なんか色々話してくれたけど、最後はスッキリした顔で帰って行ったよ。あ、そういえば仁さんに伝えてくれてたんだ、ありがとう」

「……あぁ」


ビール缶を片手に、きっと見てもいないテレビのほうに体を向けた玲央は、ソファーに背を預けたままこちらを見ずにそう言った。
なんだかんだ言って、結構ショックだったのかもなぁ……。


「……泉ちゃん、玲央のこと好きだったんだね」

「……」

「玲央もさ、泉ちゃんのこと好きだったんだろ?」

「……」


ふー。ため息をついた玲央が、テレビからこちらに視線を移す。
笑顔でもなく、呆れでもなく、自然と浮かんでいるだろう感情をそのままに、こちらを見る。


「あんな良い女、俺にはもったいねぇよ」


多分、そのとき俺は見とれていたと思う。
泉ちゃんが玲央に溺れていたと告げるあの表情と、玲央が今見せているこの表情と、まったく別の物であるのに、同等の美しさに――俺は見とれていたと思う。

あぁ、なんだか……すごく、すごく……羨ましいなぁ。




 


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