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誰も口を開くことはできなかった。
その空気に触れて良いのは、ここにいる俺たちじゃない。俺たちなんかじゃない。


「……それからは知ってのとおり、私は玲央の彼女面して童貞ばっか食いモンにしてるってわけ。
なのにさ、玲央……別れるって言ってきたの」

「……」

「なに、それって思うじゃない? 付き合ってもないのに、別れるってなによ。
突然そんなこと言われて、じゃあ私、どうすればいいのって、もう頭の中、卑しいことしか考えられなくなって、それでっ。
――……それで私、玲央のこと叩きに行った」


固まっていた雄樹がギョッとしていた。
泉ちゃんの話もそうだが、なにより玲央が叩かれたことに驚愕を覚えたのだろう。

事の顛末を語った彼女は、語りはじめてから口もつけずにいたカルアミルクを一気に飲み干した。
心なしか、どこかスッキリしているように見えるのは、気のせいであって欲しくはない。


「……いつかはさ、こんな日が来るって分かってた。だから正直、ぐちゃぐちゃにはなったけど、意外と平気なんだ。
ただ、ただね。なんか別れるって言われたとき、それじゃあ私が捨てられたみたいだなって思って。
最初から最後まで、私が玲央に溺れてたみたいだなって思ったら、居ても立ってもいられなくて……まぁ事実、私が玲央に溺れてたんだけど」


あはは。こぼれた笑みの正体が、さきほどとは打って変わって別物になったことを認識したとき、やっと俺たちも息をすることを許されたような気がした。


「私はね、あるかも分からないプライドのために玲央を叩いて、あるかも分からない見栄のためにトラくんに聞いてもらったの。それだけ……それだけなんだよ」


やっと顔を上げた泉ちゃんが、いつものように、いや、いつも以上に綺麗な笑みを向けてくれた。
口を挟むこともままならなかった俺は、そこでようやく素直に微笑み返すことができた。

何杯目かも分からないカルアミルクを飲み干した彼女は、来たときとはまるで別人のような足取りで、ネオン街へと消えて行ったのであった。




 


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