「私、レイプされたんだよね。高校1年生のとき、知らない男の人……3人くらい、だったかな?」
目を瞑り、微笑を浮かべたままの彼女が呟いた瞬間、空気が冷たくなったのを肌で感じた。
さすがに雄樹も驚きに目を丸くしていたが、目を瞑ったままの彼女は、そんな俺たちの様子を知ることはない。
「それで、テレビドラマとかでもほら、あるじゃない? その場で呆然としちゃってさぁ……。でもあれ、本当にあぁなっちゃうんだよね。
指先一つ動かせないの。逃げ出したくてしょうがないのに、全然、体は言うことを聞いてくれないんだ」
「……泉」
自棄になっているかのような告白に、見かねた仁さんが口を開く。
それでも彼女は続けた。
「幽体離脱……してるみたいな感じなのかなぁ……アレ。自分のことなのに、まるで他人事のように思えてさ。
でもふと我に返ると、あぁどうしよーって、私こんなに汚れちゃったーって、もう人生終わったんだーって、次から次へと浮かんできてさぁ」
俺たちには分からない痛みを語る彼女の口角が少しずつ上がっていく。
それと同時に、彼女のなにかが削れていくような気がした。
「それで……呆然としてたら、そこに玲央が通りかかって。一瞬の出来事だったなぁ……あっという間に男たちを殴り飛ばして、震えてる私に自分の上着を着せてさ。でも、男の人の匂いが嫌で、私、その上着を放り投げたの。
突然、糸が切れたみたいだった。急に力が湧いてきて……私、玲央相手に暴れたんだよ?
でも玲央は……今は我慢しろって、怒るでもなく、呆れるわけでもなく、ただあやすようにそう言った」
そっと、頑なに伏せられた両目が開いていく。
涙がこぼれているわけではないのに、濡れた瞳からは今にも大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちてきそうだった。
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