「おい泉、そんな顔してここに居ていいのかよ」
「いいんです。仁さんおかわり」
営業の邪魔になっている泉ちゃんに、少しだけ怖い顔をした仁さんが話しかけた。
それでも彼女はものともせず、来てから何杯目かも分からなくなったグラスをテーブルに置く。
……吐いても知らねぇぞ。呟く仁さんの顔には諦めが浮かんでいた。
「おいトラぁ……どうしたんだよ、あれ」
「いや、俺も詳しくは……」
「どうせまた玲央がなにかしたんだろ? どこに居るんだよ、玲央のやつは」
「それが……ええと、一応…家には居るんですけど」
そう、家には居る。そんでビンタを食らっていた。
……が、そんなことを伝えていいのかも分からず、俺はタイマーの確認をして、ちらりと泉ちゃんを見た。ら、なぜか睨まれていた。
「……どうかした? 泉ちゃん」
「……トラくん、なんにも聞かないの?」
「え? えー……いや、知りたいけど、聞いちゃいけない気がして」
あはは。また苦笑を浮かべてみるが、口の端が釣りそうだった。
泉ちゃんは据わった目でこちらを凝視していたかと思えば、おかわりのカルアミルクに口をつけると、その半分を一気に飲み干した。
……本当はお酒、強いんだなぁ。
「トラくんってさぁ、好きな人いる?」
カタン。グラスをテーブルに置いた彼女が呟く。
あまりにも唐突なそれに思わずパックごと、味噌を鍋に落としそうになった。
「いないよ」
「……じゃあさ、今まで好きになった子は?」
「それもいない。俺、まだないんだよねぇ、そういうの」
「……そうなんだぁ」
つまらなさそうに口を尖らせた彼女が、残りの半分を飲み干した。
仁さんはなにも言わず、またカルアミルクを作り始める。
「私ねぇ、玲央と寝たことないの」
ボチャンッ!
また唐突にそんなことを言うものだから、今度こそパックごと、味噌が鍋に落下した。
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