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覚悟を決めたように起き上がり、俺は明日の朝食と弁当の準備を始めた。
滅多に帰ってくることはない兄の分も、一応毎日作っている。

この家で与えられた俺の仕事は家事全般。
別にそう言われたわけではないが、そうしなければいけないとすぐに悟った。

そりゃもちろん、最初の頃は勝手に触るんじゃねー! とか殴られてたけど、一度注意されたことをしなければ兄がまた同じ理由で殴ることはなかった。……それはもちろん、家事だけの話だが。

共同生活をするにあたって、兄は俺にルールを課した。
兄がいる時は自室から出てはいけない。これを守らない場合、いかなる状況下であっても制裁は下された。


「あ、ベーコンない」


冷蔵庫を開けてみれば、お目当てのベーコンがいない。しばらく悩んでもみたが、まぁいいかと財布を取り、玄関へと向かう。
コンビニで買うと割高なのだが、他のメニューにするにも材料がないし、仕方がない。

玄関先でスニーカーの紐を結んでいると、不意に目の前の扉が開いた。


「あ」


やばい。そう思うと同時に腹のほうから痛みが広がり、紐を掴んでいた手がいつのまにか床についているのを呆然と見つめた。
視線だけを動かしてそちらを見ると、そこには相も変わらず兄弟とは思えない端正な顔をした男が、殺意を向け、佇んでいた。


「視界に入んじゃねぇよ、クソが」

「……」


似てる、な。そう思う。
兄は、なにかと理由をつけては俺を殴っていたクソ親父に、似ている。
じゃあ多分、俺はきっと……お袋に似てるのかな。

そんなことを思いながら、振りあがる兄の手をただ呆然と見つめていた。


次に気づいたのは朝で、俺は腹と背中にいくつもの痣を作ったまま、自室の床に倒れていた。




 


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