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「こうして縛ってあるけど、志狼は俺に手ぇ上げないし、水だって言えば飲ませてくれた。それを理由にすることもできるけど、そうじゃねぇんだよ」

「……」

「そうじゃなくて……なんていうか、……あー、そう、あれ」

「……」

「俺がさ、志狼と友達でいたいって思ってんだ。だからさ、お前が今こうして俺を裏切ったとしてもそれ、全然意味ないんだわ」


にへっ。力の入らない頬が緩みきっている。
それを見る志狼の目は頑なに拒絶を訴えていたが、それに怯むことはなかった。


「……本当、馬鹿だね、小虎」

「当たり前だろ。じゃなきゃダチの雄樹とつるむことすらままならねぇよ」

「……」


雄樹。その名前を口にして、ホームシックみたいな感情がふわりと浮きあがる。
でも待っててな、お前が帰ってきたらたくさん癒されるから、今はまだ、もう少しこのままでいさせてくれ。


「……俺はね、ここに来る前、隣県では名門校にいたんだ」

「え? ……うん」


ぽつりと、呟きだした言葉に反応が遅れる。それでも黙っていれば、志狼はまた口を開いた。


「そこには友達って肩書のやつらがたくさんいた。けど、同時に俺を妬むやつもいた。どうせなにもできないと放っていたら、友達ってやつらが俺のデマを流した」

「……」

「当然、大人は俺を信じたよ。けどね、大人と子供は違うんだね。人の悪口を言うのはさ、立場ってもんがまだない子供のほうが口にする」

「……」

「責任って重さが分かってないから、平気で人を傷めつけたり蔑んだり、手と手を取り合って仲良く一人を苛める……まぁ、やられてばかりの俺じゃないけど、つい殴ってやったら、退学」

「……」

「もう分かるでしょ? 俺は友達って肩書のやつらに裏切られて、殴って、不良になって、喧嘩に明け暮れて、親に見放されて、この街に捨てられた」


はっ。なにかを嘲笑った志狼の声が消散する。




 


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