たとえばここで俺が、「俺は裏切らないよ」とか「お前は一人じゃないよ」とか「俺と雄樹は違うよ」とか言ったところで、それが意味をもつことはないし、むしろ志狼自身望んではいないだろう。
だから言える言葉を探しているが、どうも上手い言葉が見つからない。そこまで考えてハッとする。
相手に伝えたい気持ちに、上手いも下手もあんのかよ。
「……」
「……どっかのテレビドラマみたいな、ありきたりな話でしょ? でもね、そんなありきたりな話でも、言葉で簡潔に伝えられることでも、俺には十分なんだ」
「……」
「十分、辛いことなんだ」
そう言って、志狼が笑った。
自分か、友達ってやつか、世間か、大人か、子供か。
一体なにに対して笑ったのか、それともその全てに笑ったのか。
それでも俺が言えることは、同じように簡潔でいて簡単なことなんだろう。
「……なぁ、俺のお粥さ、どうだった?」
「…………はぁ?」
「だから、美味しかったかって聞いてんだよ」
話の流れをぶった切る発言に、当然志狼の眉間にしわが寄る。
それでも目を逸らさずにいる俺に観念したのか、ため息をついてから口を開いた。
「別に、普通」
「それって不味くないってことだろ?」
「……まぁ、そうだね」
「うん、じゃあさ」
俺には分からないよ。志狼がどんなに辛いって、悲しいって、苦しいって、一人嘆いていたって、俺には分からない。
分かち合おうってこともまた、できたところで表面だけの偽善になろう。
だから、俺が言えるのは、やれるのは一つなんだ。
「俺、カシストでお粥作ってるから、いつでも食いに来いよ」
お前が辛いって感じたとき、一人になるのが嫌なとき、ちょっと疲れたときでもいい。
そんなときにフラッと足を運びたくなる、そんな存在でいたいんだ。
← →
しおりを挟む /
戻る