「怪我治ってたのか?」
「当たり前。こんなの怪我の内に入らないよ」
「……そっか、良かったな」
「はぁ?」
「だってそうだろ? これで――思いっきり玲央と喧嘩できるだろ?」
「……は?」
さすがに喉の渇きがひどくなって、小さく咽てしまう。
それを見ていた志狼に視線を向ければ、彼は逸らすでもなく見つめ返した。
「ごめん、さっき投げたペットボトル、俺にちょうだい」
「はぁ?」
「まだ中身入ってるじゃん。喉乾いたから、それちょーだい」
「……」
完全に翻弄されている。志狼はしばらく考えたあと、無表情なままペットボトルを拾いに行き、戻ってきた。
そのまま俺の口に突っ込めば、少量の水が口の中を無遠慮に襲ってくる。なんとか飲み込めば当然、空気も一緒に飲んで音が鳴った。
「……けほっ、……はっ、突っ込むなら突っ込むで言えよ。びっくりした」
「それにしてはちゃんと飲んでたけどね」
「や、まぁ。喉乾いてたしな」
「……ふーん」
今度こそ空になったペットボトルが投げ捨てられる。パコンッなんて、まぬけな音が廃屋に響く。
志狼はまた、パイプ椅子に腰を下ろした。
「で? どうやって帰るの?」
「え? ……あぁ、うん。その前にさ、教えてくんねぇかな、あ、いや。別に嫌ならいいんだけど」
「なに?」
怪訝な目を向けられ、思わず頬の筋肉が緩んでしまう。
「なんで怨みもないのに、こんなことしてるのかってこと」
緩んだままの頬が生成する表情は笑顔だ。それを見ている志狼の顔が不快感に歪むのを知ってなお、俺の頬は緩んでいる。
「簡単だよ。俺はね、不良なんてどうでもいいんだ。けど」
静かに、まるで朝日がそっと差し込むような静けさと時間のように、志狼の顔には闇が差す。
「友達ってやつが大っ嫌いなんだ」
ほの暗い闇の中に浮かぶ双眸が、ただただ俺を見下ろした。
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