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「……ら」


真っ黒な闇の中で、俺は誰かに呼ばれていた。
無理に引き戻された意識が悪態をつきながら、ゆっくりと体に戻る。

目を開けたとき、割れた窓から見える空は黒く、自分が気絶していたことを物語っていた。
俺は目の前で煙草を吸いながらしゃがむ志狼を見る。


「おはよ」

「……俺、どんだけ寝てた?」

「んー、頭蹴られて気絶して、五時間くらい?」

「……そうか」


痛い。体が、痛くてだるい。
まるで風邪をひいたみたいに、体の関節が動くことを拒否している。
足は自由なくせして動かないし、腕は縛られて痛いし、手首からはロープが擦れたのか濡れた感じがするし、口の中は……血の味がする。


「実際見て、ちょっと驚いた」

「……え?」

「小虎って、本当に殴られると人形みたいな目、するんだね」

「……」

「痛いとも止めてとも言わないから、みーんな殴ってもつまんないって、早々に出てったよ」

「……そう」

「それが狙いってわけじゃないんでしょ? それともあれ? 無痛症?」

「……いや、普通にいてぇよ、今も正直……口ん中切れてて、辛い」

「そうなんだ」


なにを考えているのか分からない。志狼はただ無表情なまま、つまらなさそうに煙草を吸っている。
その煙が目に入れば、痛さに瞼を強く閉じた。


「ね、なにも言わないの?」

「……なにって、なにを?」

「友達として過ごした時間は嘘なのか、とか?」

「聞いてどうすんだよ」

「……んー、嘆くとか?」

「はっ、それが望みなら泣いてやろうか?」

「えー、なんかそれ、面白くないからいい」


クスクス。やはり志狼は上品に笑う。つられて俺も頬を緩めれば、志狼は汚物でも見るような目を向けてきた。


「ねぇ、そのどうでもいいって顔、止めたら?」

「……は?」


なのにそう言うもんだから、思わず拍子抜け。




 


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