「でも……俺は、弟だから」
「うん、だから。弟だから狙ったんじゃん」
「……」
墓穴、というわけではないが、ハッとして息を呑む。
「で、俺はいつ小虎をこうしてやろうか近くで探ってたってわけ。ちょうど今は雄樹たちもいないし、玲央も隆二もモデルの撮影なんだって。豹牙はデスリカで手伝ってるらしいけど、まぁ、まだ知らないだろうねぇ」
「……そう、かよ」
「うん」
だから、それはつまり――。
思うことすら嫌な感情が、ひどく鬱陶しい。
だけど志狼はまた口を開き、言った。
「ね、俺との友達ごっこは楽しかった?」
「……っ」
「玲央たちにわざと喧嘩ふっかけて勝負したのはね、俺が敵だと思うその気持ちを少しでも和らげるため。わざわざ自分から敵ですってアピールするより、少しでも信じた相手が敵だなんて、滑稽でしょ?」
「……」
「小虎と出かけたあの日も、追っかけてきた不良はこいつら。普通おかしいと思うでしょ、あの辺りで急に姿を消したらさ、どっか入ったんだなって考えて、外で待ち伏せするに決まってるじゃん。なのに居なかった。つまりそういうこと」
「……」
「本当はもっと小虎と仲良くなってから実行しようと思ったんだけど、ちょうどタイミングもいいし攫ってみた。――で、気分はどう?」
「……さい、てー」
「そう、良かった」
にこり。笑った志狼が立ち上がる。
ついそれを目で追えば、ひどく冷たい双眸が俺を見つめていた。
「人質ってわけじゃないけど、まぁそこで見てなよ」
「……なにを」
「お兄ちゃんがボロボロになる姿……かな?」
「……」
志狼の口から煙草が落ちる。それを踏みつぶしたあと、彼は背を向けた。
追いかけようにも体の自由はない。下唇を噛みしめた瞬間、頬に走る鈍い痛み。数秒後、自分が蹴られたことを理解すれば、離れたところでこちらを見る志狼と目が合った。
それでも、俺の体は動かなくって、志狼も見つめるだけで動かない。そんな時間が、ただひたすらにつづいた。
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