「突然だけどさ、小虎くんはこの街が好き? 越してきたんだよね、確か」
「はい、そうです、越してきました。好きか嫌いかだったら、好きですかね」
「そっかそっか」
リードすることを促されて思惑する。思い切ってスペードのキングを出せば、彼は嬉しそうに笑みを深くした。
そのまま彼がスペードのエースを出し、まさかの自爆だ。……トリックを取った司さんはこれで、マイナス十七点。
「俺はね、この街が嫌い。大嫌い」
「……理由を聞いたほうがいいですか?」
「あははっ。いや、聞かれなくても話すつもりだったけどね。まぁ、色々犯罪が起きててさ、そんなのこの街だけじゃないけど」
「はい」
「でもさぁ、俺がまだブラックマリアを作る前に、麻薬でブッ飛んだガキにお袋、刺されたんだよね」
「……え?」
出そうとしたカードが手から落ちる。司さんが笑った。
慌ててすぐにカードを表にしてテーブルに置く。なんてことない態度で司さんがリードすれば、このトリックも彼の勝ち。
「まぁ生きてるけどねー。でも、その事件のせいで豹牙がさぁ、色々おかしくなっちゃって」
「……」
「まー色々あった。あったよ、そりゃ。でも俺はどうでもよかった。家族が刺された? 豹牙がおかしくなった? んなのどーでもいい」
「……」
「んで、当時俺はさ、パソコンばっかやってたわけ。なにしてたかっていうと、ハッキングしたり色々。で、ちょっとドジ踏んで警察に捕まった」
彼がダイヤのエースを出す。ダイヤがもう手札にない。仕方なくクラブの6を出せば、このトリックも彼の勝ち。
「そしたら警察の中でも変わった人がいてさ、この街を正すために協力してくれないか、だって。警察が、だよ? ねぇ小虎くん、俺は思ったんだよねぇ、そのとき」
「……なにを、ですか」
「――あぁこの世に、正義なんてありゃしねぇ」
どこか背中に重みのある言葉が、確かに彼の口から発せられた。
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