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「あ、小虎くんだー」

「あ、ども」


翌日、終業式が終わってすぐにカシストに来た俺と雄樹は昼タイムから働いていた。
夕方になってデスリカからデリバリーを頼まれて持って行けば、珍しいことに司さんがカウンターに立っていた。


「いやー、本当に人気だねぇ。小虎くんのお粥」

「なんかすみません、提携しなくてもこっちはやっていけるでしょうに……」

「あはは。いーの、いーの。俺、どうせ仁とはまた手を組みたかったからさ、むしろありがたいよ」


頼まれていたお粥をカウンターに置く。すぐに司さんがスタッフの人に声をかけて運ばせた。


「ねぇ、小虎くん。ハーツのルール知ってる?」

「え……まぁ、多少」

「うん、じゃあちょっと、俺と勝負しよっか」


にこり。笑った司さんが仁さんに「ちょっと小虎くん借りるねー」なんて電話をするのをただ呆然と眺めていた。
ここじゃあうるさいからと、司さんは俺をスタッフルームの奥にある部屋に通してくれた。多分、オーナールームなんだろうか。
どこか閉塞的な空間に戸惑いながら、無機質なパソコンが並ぶ異質な光景に戸惑う。


「ほら、ここ座って」

「あ……はぁ」


部屋の右端に置かれたソファーに腰を下ろす。テーブルを挟んで対になるソファーに司さんが腰を下ろした。
テーブルの上にトランプの山が一つ、置かれた。


「あの、ハーツですよね? なら二人でやっても意味ないんじゃ……?」

「いーのいーの。どうせこれはおまけだから。それにハーツじゃなくて、今からやるのはブラックマリア。ルールはあんまり変わらない」

「……」


おまけ。完全にそう宣言した司さんに目を向ける。
彼は気にするでもなくトランプの山を手に取った。


「とりあえず三人ルールでいくよ。スペードの2は抜いてのスタート。簡易にしてハートは罰点なし、だからハートはいつ出してもオッケー。スペードのエースはマイナス七点、スペードのキングはマイナス十点、そしてスペードのクイーン……ブラックマリアはマイナス十三点」

「……」

「今回はスラム(総取り)ありでいこう。計マイナス三十点だった場合、それはプラスに変換される――同時にスラム成立で強制的にゲーム終了……いい?」

「……はい」


いたって普通な笑みだ。ただ違うのはこの独特感のある雰囲気なのか。
あぁ、そうか。この部屋――静かすぎるくらい音がないんだ。




 


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