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それから兄貴の命令通り、お風呂にお湯を張ってすでに渡された夏休みの宿題をしていれば、兄貴が帰ってきた。
最近は勉強をするのもなにをするのもリビングのほうだったので、入り口のほうに顔を向ける。
どこか不機嫌そうな兄貴だったが、やつはさっさと自室に向かうと着替えを携えて風呂へ向かった。なんなんだ、アイツ。


「おい」


なのに数分後、腰にタオルを巻いただけの兄貴が俺を呼ぶもんだから、ビビる以前に引いたわ、普通に。なんちゅー恰好してんだてめぇ。


「な、なに……」

「背中流せ」

「……は?」

「今日はむしゃくしゃしてんだよ。いいからやれ」

「……」


なんて傲慢なやつなんだろう。今にはじまったわけではないが、少し信じられないぞ、俺は。
しぶしぶ兄貴のあとを追って風呂場へ行けば、さっさと風呂イスに座って背中を向ける兄貴がいた。
ちょっとだけムッとしながら寝間着のジャージを膝まで上げる。


「スポンジ」

「ほれ」


石鹸もつけられていないスポンジを受け取ってさらにムッとする。
あくびをこぼす兄貴の横を通ってボディーソープをスポンジにプッシュした。くそう、俺様野郎め。
めちゃくちゃに泡を立てて広い背中を上から擦っていけば、「もっと右」とか「上だっつってんだろ」とか、文句ばかりが飛んでくる。

じゃあ自分で洗えよ、とは言えないのがまた悔しい。


「なんでむしゃくしゃしてんの」

「あ? 抱いた女が全員緩かった」

「……」


サイテー。サイテーすぎる、この兄貴。
その腹いせで弟に背中を流させるとか、マジで自己中にもほどがある。まぁ、今にはじまったわけじゃないんだけど。


「……はぁ」

「なぁ」

「あ? なに?」


そんな兄貴の背中を洗っていれば、鏡越しにこちらを見るやつと目があった。
なんつーか、逞しい体してんな。


「なんでよ、てめぇは俺の言うことを素直に聞くんだよ」

「……はぁ?」

「嫌だったら嫌って言え。前にもそう言ったろ?」

「……」


どこか真剣な面持ちをされれば、返事に困る。




 


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