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「まぁいいけど、笑われんのは慣れてるし」

「あ……ごめん……」

「いいよ、別に。お前も笑われるだろ?」

「……まぁ、ね。可愛いとか、よく言われる……けど正直、嬉しくはないな」

「ははっ、分かる分かる」


口に手を当てながら志狼が笑う。規則的に並んだ街灯の光が、銀の髪を照らす。キラキラと光って、なんだか目を細めてしまう。


「小虎ってどこ高? 天高(あまこう)?」

「あ、うん。天宮(あまみや)」

「へぇ。俺、夏休み終わったら転入するから、仲良くしてね?」

「え、あ……それは、別に」


転入。この時期に、か。
珍しいものでも見るような視線を志狼に送れば、やつはすぐに気づいてフッと微笑む。
やはり俺や雄樹とは違ってどこか大人だ。同い年のくせに、なんだか妬ましい。


「小虎はこの時間までなにしてたの?」

「あ、バイト。カシストってバーで」

「カシスト……? あぁ、デスリカの下?」

「うん……つーかなに、知ってんの?」

「まぁ、こっちの世界には色々あるから」


こっちの世界。多分それは不良の世界、ということなんだろうか。よく分からないが。
深くは追及しないでおこうと息を吸う。夏特有のまとわりつくような空気がどこか煩わしい。


「あ、もういいよ。あのマンションだから」

「そう? じゃあおやすみ、小虎」

「うん……おやすみ」


あっというまに過ぎ去った二十分を、少し惜しいとも思う。雄樹以外のやつとここまで話したのは久しぶりだ。
隆二さんたちは別としても、なんだか……胸の奥がうずうずする。なんか、なぁ。

背中を向ける志狼がまた街灯の光に照らされる。眩い銀の髪が透けてしまえば、どこか兄貴を思い出さずにはいられない。


「志狼っ!」


だから、なんだろうか。光で簡単に透けてしまう髪が、あまりにも似ているから、なんだろうか。
俺は無意識のうちに叫んでいた。少し驚いた表情をする志狼がこちらを見る。


「明日も俺、バイトだからっ! よかったら、来いよっ!」


俺はなにを言っているのだろうか。たった少し話しただけで、勝手に仲良くなれたとか思っているのだろうか。分からない。
分からない、けど。志狼がフッと微笑んだだけで、なにもかもが許された気がしたんだ。


「分かった。気が向いたら行くよ、小虎」

「……おうっ」


柔らかな笑みを浮かべる志狼に、俺の頬はなぜか赤く染まっていた。




 


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