「……ありがと」
「どーいたしまして」
平然と言ってのける美形は俺より身長がある。ただ、兄貴よりは小さいな。つーか兄貴がデカすぎんだ、化け物かよアイツは。
「家どっち?」
「あ、……あっち、です」
指をさしてマンションのほうを知らせれば、美形は少しのあいだ俺を見つめ、かと思えば歩きだす。
倒れている男に目を向けたが、俺は美形のあとを追った。正直、ここら辺で不良が倒れているなんてしょっちゅうなんだ。一々全員相手にしてたら、俺のほうが持たん。許せ、不良たちよ。
「……あの」
「なに」
「……ここら辺の人、じゃないです、よね?」
「まぁね」
人通りのない暗い道を並んで歩く。短ランに校章がついていないから不思議に思って詮索なるものをするが、自分で聞いといてなんか切なくなってきた。
別に好奇心、ってわけじゃないんだけど。
「……」
「……」
「……」
「聞いて終り? 変なやつ」
「わ、う……すみません」
自己嫌悪、とでも言うのだろうか。
肩をすぼめてしまえば美形がクスッと笑った。慌てて横を見れば、前を向いたまま口角を上げる姿。
隆二さんとはまた違う美しさがそこにはあった。
「アンタいくつ? 敬語使ってるけどさ、高一?」
「あ、はい……えと、」
「俺も。同い年だから敬語止めなよ。かたっくるしい」
「う、うん」
なんだろう。同い年のくせに大人だな、こいつ。あぁ雄樹にも見習って欲しい。
「名前は?」
「小虎」
「小虎? ふーん、可愛いね。俺は志狼(しろう)。だっせぇよな」
「志狼? ……ははっ」
「ちょっと、なに笑ってんだよ」
「俺は笑わないでやっただろ」そう言いながら睨んでくる志狼には申し訳ないが、なんだか可愛い名前に笑ってしまった。すまん。
笑いの収まらない俺に対し、志狼は諦めたように息を吐く。
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