「おい」
「……あ、兄貴……」
そんなことをしていれば、シャツなど着ている意味もない恰好で兄貴が二階へやってきた。
どうせまたヤッていたのだろう。童貞の俺でも慣れたぞ、こんくらい。
「なにしてんだよ、てめぇ」
「え? いや、デリバリー。隆二さんに」
「……チッ」
なぜか不機嫌な兄貴が隆二さんの隣に腰を下ろす。
豹牙先輩はそんな兄貴にクスリと微笑み、颯爽と螺旋階段のほうへ向かっていった。
「不機嫌だな?」
「あ? あー……緩くてよぉ、全然気持ちよくねーからイケなかった」
う、わー……。聞きたくない話だぞ、これ。
俺もデリバリーをしたことはしたので、カシストに戻ろうと立ち上がる。
「おい」
「え?」
なのに兄貴が呼ぶから、反応しないわけにはいかなくて。
「今日は帰るから、風呂ためとけ」
「……はいはい」
だけどまぁ、俺に用があるわけなんてないし、別になにか言って欲しかったわけじゃないが。でもだからってパシリかよ。ちくしょうめ……。
さっさとカシストに戻って今日の業務を終えれば、罰として掃除当番になった雄樹がヒーヒー言いながらモップをかけていた。
俺はそんなやつの姿になぜか安心してカシストから出る。ビルの外はまだまだ深夜徘徊をする不良たちが大勢いたが、どうせデスリカにでも行くのだろう。
カシストは昼も喫茶店をやるから夜は二時になったら閉店だ。デスリカは五時までやっているが。
ネオン通りから路地に入ってマンションを目指す。徒歩二十分の距離も夏は独特の空気があるからいい。冬になれば寒そうだけど。
――カラァアン……。
「?」
ふと、暗がりで先の見えない路地の奥から音がした。
大方どっかの不良が喧嘩でもしているか、酔っ払って倒れているのだろう。呆れて足を進めようとしたとき、暗がりからなにかがこちらに、伸びた。
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