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「そういえばさっきの人に聞いた。モデルやってるんだ?」

「あ? あぁ、んなたいそうなもんじゃねぇよ。ババアに無理やりやらされてるだけだ」

「ば、ババア?」

「スカウトしてきた事務所の女社長」

「……へぇ」


先ほどのことを話題に出してみれば、やはり半信半疑だったことが事実となって驚く。
この顔でモデルってのは納得できるけど、あの兄貴が素直に承諾するとは思えない。絶対、金で動くようなやつじゃねぇもん。


「あの、詳しく聞いても、いい?」

「別に。ただスカウトされて、断ったけどババアが家に押しかけてきて、俺の首とっつかまえて写真撮って、それが雑誌に載ってるだけだ」

「……ごめん、ちょっと信じられない」

「俺もだ。あのババア、司以上に凶悪だろ」


げんなりとした兄貴が煙草の灰を灰皿に落とす。
司さんが凶悪、というのもまた信じられないことなのだが、街でも畏怖されている兄貴をモデルとして雑誌に載せる女社長とやらも信じられない。

聞けば、その女社長さんは泉ちゃんのお母さんで、それでも断りつづけた兄貴にたいして「泉のためにやりなさい!」とか言ったらしい。
当然、それで素直に言うことを聞くはずもないが、毎度毎度、拉致されては撮られるらしいのでもう半ば諦めているんだとか。


「でもさ、彼女のお母さんなら少しは協力してやれば?」

「あのなぁ、俺が他人のために動くと思うか? 形だけの彼女や隣歩くのは許した隆二のためでも動くわけねーだろ」

「……」


隆二さん、泉ちゃん、こんな最低な兄で本当にごめんなさい。
どうしてこいつはこう、自分が世界の中心なんだろうか。それでも人が寄ってくるから不思議だが、そこには納得せざるを得ないというか。
あぁでもだからって、自分のためにしか動きませんと宣言されれば、弟としては心配というか不安というか、それでいいのか兄貴、みたいな心情になるぞ、俺は。


「でも今日、兄貴は俺のこと連れてきてくれたじゃん。だから口ではそう言っても優しいやつなんだなって、勝手に思ってる」

「……だからよ、変なとこで素直っつーか。思ったことを口にする前に、少しは考えろ」

「なんで……?」


やっと兄貴に視線を戻せば、やつは歪んだ顔で俺を見た。


「聞いててこっちが痒くなる」


……すみませんね。




 


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