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それから真っ直ぐ帰るのかと思っていれば、大量の紙袋を駅前のロッカーに突っ込んだ兄貴は、なにも言わずに喫茶店へと足を入れた。
ついていけば昼のカシストとは違う、これこそまさに喫茶店とでも言える店内だった。
勝手にコーヒーを二つ頼む兄貴に文句も言わずにいれば、やつは早々と煙草に火をつける。


「なんだよ」

「え?」


そんな兄貴を見つめていたのだろうか。
不愉快そうな双眸がこちらを見る。すぐにやつの手元にある煙草へ視線を向け、誤魔化した。


「いや、ヘビースモーカーだなって」

「は? 煙草が苦手とか言わねぇだろうな?」

「や、苦手だったらもっと前に言ってるし」

「言えねぇくせに、なにほざいてんだてめぇは」

「……」


まぁ、実際その通りではある。
だが別に煙草の煙が嫌、だなんて女の子らしいことをいうつもりはない。
だいたい親父もヘビースモーカーだったし。そう、酒も浴びるように飲んでたっけ。
兄貴はそこまで飲んだりしないけど、でも比較的飲むほうなんだろうな。


「なんか……俺、まだ夢見てるみたい」

「はぁ?」


兄貴の呆れた声にハッとする。俺、今なんて言った?
慌てて口を手で押さえてもみるが、それが意味を持つことはなかった。

怪訝な表情をする兄貴から視線を逸らし、街の風景を見つめる。


「俺、こうして街に出て遊ぶの、久しぶりかも」

「……雄樹と遊んでねぇのかよ」

「ん、遊ぶけど、やっぱ夜のが多いし。学校では寝てばっかだし」

「そんなんでよく赤点取らずにいれたな」

「まぁ、暇があれば勉強してたから」

「へぇ」


意識して変えたつもりはないが、不思議と会話がつづいている。
こうやって俺がなにかを口にすれば、兄貴はちゃんと返事をくれる。

思えば、俺が言ったことは嫌々でも、前から実行していてくれていた気がするんだ。
俺が一人になるって言ったときはカシストに送ってくれたし、一緒に走ってって言ったときは走りはしないがゴールまで連れてってくれた。オムライスは誤解させたようだが、作ってもくれた。

兄貴面をかましてみろって言ったときは、いつもの無表情を変えて承諾してくれた。

兄貴は、俺が言えばちゃんと実行してくれる。それを俺はどこかで理解していたのかもしれない。
でも理解と信用が同等になるはずもなくて、結局は一人で勝手に落ち込んだり悲しんだり、しまいには怒鳴ってもみたり。

なのに、そうやって怒鳴っても「そうしてろ」って言ってくれる兄貴が、俺は好きだ。




 


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