会計を済ませて店のロゴが入った紙袋を両手いっぱいに抱えれば、兄貴はやはりさっさと店をあとにした。
ついていこうと少し駆け足になれば、グッと肩を掴まれて引かれる。
「玲央と隆二が載ってるやつ入れといたから、見てやって。んで、またおいでね?」
「あ……なんか、色々お世話になりました。ありがとうございます」
「うん、じゃねー」
肩からズレ落ちる紙袋の紐を直しつつも一礼して、俺は兄貴を追うために店を出る。
入って来たときと同じようにカラアンと鐘が鳴れば、不思議と胸が踊っていた。
俺は家での兄貴しか知らない。隆二さんたちと不良をしている姿も、モデルをしていることも、学校でなんて体育祭以来会ったこともないから特に、街でなんて今日歩かなきゃ絶対に知らないままだった。
だけど少しずつ、本当に少しずつだけど、俺は兄貴のことを知っていっている。潔癖症だとか、気に食わないと殴るくせに、ちゃんとそこに自分なりの理由があることとか、それがちゃんと悪だと分かっているとか、本当は意外と、自分の周りを見ていることとか。
目指している兄弟像とは限りなく遠いが、それでもこれが俺と兄貴だけの兄弟像なんだと思えば、なにをしてもされても嬉しくてしようがなかった。
「兄貴っ」
「あ?」
店の外で待っていてくれた兄貴に駆け寄って、身長差に悔しさを覚えつつ見上げ、俺は言う。
「今日、ありがとう。俺、すげー嬉しい」
「……」
照れながら笑ってしまえば収まらないもので、口元が緩みすぎて溶けそうだ。
あぁ、やっぱり未だに信じられない。あの兄貴がこうして、俺と一緒に外を歩いてくれている。俺に服を買ってくれた。今ならなにをされたって、許せる気がしてる。
「変なとこで素直なやつ」
「い、いいだろ、別にっ」
なのにそんな俺を呆れて見てくるもんだから、余計なプライドみたいなものが邪魔をする。
それでも兄貴が舌打ちもせずに歩きだせば、それだけで幸福だった。
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