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しかし街に来てみれば、それまで感じていた喜びも落ち着きのないものへと変わってしまった。
最近、俺は兄貴と家でしか会ってもいないし話もしていなかった、だから、すっかり忘れていたんだ。

兄貴がこの街にとって、どれだけ凶悪な存在かを。

噂通り、兄貴が歩けば人は怯えた表情で避けていくし、肩があたってしまえば土下座まではしないが、こちらが申し訳なくなるほどの謝罪を見せてくれる。それでも兄貴は舌打ちをしていたが。
綺麗なお姉さんや可愛い女の子たちはそんな兄貴を熱を持った眼差しで見つめているし、行動派の人は話しかけても来る。しかし兄貴が放つのは「うぜぇ」「邪魔」「消えろ」である。

どうしよう……俺、この人と兄弟らしいこと、なんで望んでたんだろう。

そんな兄貴から少しでも距離をとれば、すぐに気づかれて睨まれる。だから必死に隣……とまではいけないのでうしろをついていくが、なんだか居心地が悪い。
あぁ、俺って……兄貴のこと、なんにも知らないんだな。そう言われている気がして、好奇と恐怖の視線に顔を俯かせてしまう。

なんか、切ない。


「おい」

「え……わぶっ!」


急に呼ばれて顔を上げれば、立ち止まっていた兄貴の胸にぶつかった。痛めた鼻を擦っていれば、周りの人たちは顔を青ざめて早々と去っていく。
まさか、こんな街中で……いや、殴らないだろう、うん、大丈夫。そう言い聞かせてはいるが、きっと俺の顔も青ざめていただろう。

しかし兄貴は舌打ちをこぼすだけで、目の前の店に入っていった。
呆然と立ち尽くしながら、周りから聞こえる安堵の息と好奇の視線に、俺もすぐさま店へと逃げるように足を踏み入れる。

カラァン。
扉についている鐘が来客を知らせる。
中は兄貴や隆二さんが好んでいそうなジャンルの服が並ぶ、恰好いい店だった。

天井にぶら下がるファンを見つめながら、なんて自分は場違いなのだろうと息を漏らす。




 


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